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2006年2月 1日 (水)

1.通勤電車のオキテ

(Written on 04年7月1日) 

 東京の通勤電車のオキテ、それは他人と向き合わないこと。電車の中心にタテのラインを引いたとして、その線から右側の人は右のドア方向、左側の人は左側のドア方向に向かって立つという不文律ですね。ま、これは吊り革につかまる人の向きからのごく自然な流れですけど、時としてこの摂理に抗う人がいたりします。ドアに寄っかかって電車の内側向きに立つ方々がそれで、すいている車内なら気にもなりませんが、通勤電車だとねえ・・・。どうしたって普通に立っている我ら善良な小市民と向かい合わせになる。なぜだ?アンタはそんなに足腰弱いのか?けっこう顔近いのに、イヤじゃないのか?電車が揺れてキスでもしちゃったらどーすんだ?

(男でも女でも、それなりに困っちゃうぞ)って感じで、不安と焦燥のあまり先に根負けするのはこちら。にらめっこを回避するために中吊り広告を見ようと、不自

然な角度で首を斜め上にねじったりして、安全な視線の落ち着き先を確保するわけです。でも肩こるし、見つめている広告がアサヒ芸能のエッチな見出しだったり、トリンプバーゲンの下着女性だったりすると、これはこれで危ない人になりそうなので、悩みは深いのです。

 さて、ある朝の通勤電車で、年の頃五十前後のクールなサラリーマン風男性が、ドアを背に私の前に立ちはだかりました。フェイス・トゥ・フェイスで。体勢を変えるスペースはなく、頭の位置もけっこうガードされていた小生は、彼のネクタイの結び目やら、モミアゲあたりのひげ剃り跡にぼんやりとした焦点を合わせるしか

ありません。(うう、いやだよお。神よ、私が何をしたと言うのです!)こうして、ただ時間と脂汗が流れていき、終点一つ前の駅に着いたその時、奇跡は起きました。男のもたれかかっていたドアがいつもの通り開き、「お。」という短い発声と共に彼の体が後ろに傾いたのです。何とかバランスを立て直してコケるのだけは

回避した彼でしたが、そのわずか一、二秒の間に、クール・ガイはかっこわりーオッサンになってしまいました。ラスト一駅間、彼もドア向き仲間になったことは言うまでもありません。

東京の神様は、いつだってあなたや私の味方なのです。

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