名作「母べえ」の静かな怒り
山田洋次の「母べえ」はやはり名作でした。時代劇三部作では「たそがれ清兵衛」を頂点として、「隠し剣 鬼の爪」「武士の一分」とゆるやかに下降してしまった後の作品で、また新しい高みに達しています。 美術とか衣装とか撮影とかの映画作りは、ごく普通の顔していながら、素晴らしく質が高いです。予算面も含めて、今こんな映画作りが出来るのは、山田洋次だけでしょう。松竹の伝統を、いや日本映画の伝統を一人で背負っちゃってます。
とにかく泣けます。泣かせてくれます。でもそれは「お涙頂戴」ではなく、反戦の思いに溢れた“静かな怒り”に打たれるからです。『こうあってはいけない』という、祈りをはらんだ憤怒。「これを描くんだ」という腹の据わった決意というか、作家の魂のようなもの--変な例ですが、それは1年前の「それでもボクはやってない」とも共通するものがあるように思えます。
吉永小百合62歳の驚異的な若さには驚かされました。また、浅野忠信をこんな感じで使ったってのは、「息子」における永瀬正敏を思わせますね。山田洋次って、自作を古めかしくさせないために、そんなことも上手にやる人ですね(「幸福の黄色いハンカチ」の武田鉄矢&桃井かおり とかね)。 子役の二人が共に「未来」って名前なのは何という偶然でしょう(志田未来=みらい と佐藤未来=みく)。 笹野高史、でんでん もうまいけど、吉永の父親役の中村梅之助が、それはそれは絶品です。
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