「スイートリトルライズ」の美と通俗
映画『スイートリトルライズ』、スタイリッシュです。何やら美しいもの、気持ちの良いもので満たされた映像と、静けさと安らぎに満ちた時間。たとえそこに幾ばくかの不安や不穏や異常が内包されていようとも、この映像を観続けることは、あくまでもいい気持ちなのでした。ただ、一方ではややファッショナブルに通俗に流れて、矢崎仁司監督作としては、『華を摘む少女と虫を殺す少女』や『ストロベリーショートケイクス』ほどの傑作には至りませんでした。
墓地、赤と白の花びら、ガラス、リボン、腕で作る輪などの象徴性が全編を覆い、台詞の直截的な象徴性も含めて、この映画は形而下と形而上の間を漂っているかのようです。その中心が中谷美紀であることは言うまでも無く、ごく自然に浮世離れした言葉を発する彼女の美しさと浮遊感が、本作のトーンを決定づけています。けっこうジャンプカットがあるあたりも、鈴木清順的な味わいでした。 けれども最後に、「おやおや、これはデイヴィッド・リーンの『逢びき(Brief Encounter)』(1945)でしたか」ってなシーンが出てきたのにはびっくり。妙に通俗な地点に着地したような・・・。
中谷さんの主人公はテディベア作家でして、冒頭のテディベア製作過程などは非常に興味深いものでした。また「人形は目が命」なので、目の位置を決めるのに相当逡巡している場面などは、さもありなんって感じでした。 まあ目の位置に縫い針を突き刺す映像などは結構コワイものがあり、そこらへんのちょっとした毒も、本作の中での“ソラニン”的に効いていたりするのですが・・・。
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