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2010年5月18日 (火)

『「いき」の構造』に感嘆

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九鬼周造の名著『「いき」の構造』他二篇(岩波文庫)を読みました。以前よりちょっと気になっていた本ではあるのですが、読んでびっくり。「いき」などという純粋に感覚的、情緒的な事柄を実証的、論理的、ある意味科学的に分析した一考察だったのです。

表紙にもある直六面体が「いき」の構造を立体的に図示したもので、それぞれの角が「意気」「野暮」「渋み」「甘み」「上品」「下品」「派手」「地味」になっており、その中で、この面は○○、この三角形は△△、××はこの線分の中間点などなどのように、ニュアンスの世界を幾何学的構造の中に捉えるという、あっと驚く大技をやってのけているのです。

九鬼の定義する「いき」とは、「垢抜して(諦)、張のある(意気地)、色っぽさ(媚態)」ということで、そのことを歌舞伎の台詞や花柳界の話などから、西洋の歴史までを持ち出して、日本に根差したこの独特の感覚を実証的にペダンティックに論じているのです。 

昭和5年の論文ですから、今読むとさすがに難しいのですが、一方では「おお、なるほどなるほど」と非常にすらすらと抵抗なく理解できたのは、小生が(似非かも知れませんが)江戸の香りを好む東京っ子のはしくれだし、歌舞伎やら落語やらをちょこっとは齧っているからなのだと思います。 『横縞よりも縦じまの方が「いき」であるといえる』とか『曲線を有する模様は、すっきりした「いき」の表現とはならない』とか言われて、すんなり「ああ、そりゃそうだよね」となるか、「え??」となるかで、この本へのシンパシーと評価は全く違ってくることでしょう。

併収の『風流に関する一考察』『情緒の系図』も同様の奇抜なアプローチで、情緒的テーマの解剖に挑んでいます。 しかしながら、その切れ味の良さ、日本文化の本質にも迫る普遍性という意味で、『「いき」の構造』が他を引き離す高みに達しています。 多田道太郎氏による巻末の解説も、本書理解の手助けとして非常にわかりやすく優れたものだと思います。

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