『さんかく』:上半期の収穫!
映画『さんかく』、なかなかの傑作です。きっちり笑わせ楽しませながら、唸らせます。痛いとこ突いてきます。 高岡蒼甫演じる三十男が、見た目はカッコイイのに実にイタイ感じを出してます。しょーもないヤツです。車も大改造ナルシスティック“イタ車”だし。あおい夫人が観たら、大笑いなんだろか?引くんだろか?
小野恵令奈(AKB48)は小悪魔的と言うにはあまりにもボケボケな妹キャラで、鼻にかかった声もなんかバカみたい。でも、そっと手を重ねるシーンだとか歩きながら腕を組むシーンだとか、ここらへんのヤバいニュアンスをしっかり描いたのは吉田恵輔監督の手腕の確かさを示します。彼女を魅惑的に見せるべきショットでは、しっかりライティングや撮影技術でファンタスティックな絵を作っていますしね。
でも、本作で圧倒的なのは田畑智子! 今時点で『お引っ越し』と並ぶ代表作になりました。一頃より随分やせて魅力的になってますが、ある種の犬っぽい個性的な顔は健在で、欠点もコンプレックスも内包した女を演じて、実に巧いんです。本作におけるあわて方とか取り乱し方とかのニュアンスの多様性と含みの深さは、演技力の究極を見せています。本年のライバルであろう満島ひかり(川の底からこんにちは)、松たか子(告白)らを押さえて、大江戸の上半期主演女優賞ものです。 なにしろエンディングで見せる彼女の表情の素晴らしさが、本作の価値をさらに1ランク高めていると思います。
「ミイラ取りがミイラに」の如くストーカーがストーカーになる皮肉な連鎖。「人のふり見てわがふり直せ」ですね。愛のすれ違いやら、駆け引きやら、力関係やら、空しさやら、アホらしさやら、タイミングやら・・・、哀感まで醸し出して、ここらの上手な描写がお見事です。観る者の心にも、複雑なスクラッチを残します。 『告白』と並ぶ上半期日本映画の収穫と言ってよいでしょう。
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