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2010年6月20日 (日)

上半期ベスト「告白」

映画『告白』、巷でささやかれているように問題作かつ傑作です。原作は1年以上前に読んでいましたが、この映画、実に原作に忠実です。それなのに、原作とは別ものに感じられるという不思議な仕上がりです。やはり中島哲也監督・脚本。あの『嫌われ松子の一生』のようなドロドロ暗い話を、ポップなエンタテインメントに仕上げた禁じ手の王者が、今度は別の方法論で、しかしながら更に深化した映画をものにしました。話題の原作をここまで見事に映像化した例も数少ないでしょう。

原作のなんとも飲み心地の悪い「毒」が、ここでもきっちり「毒」として存在して、それでいてワクワクするほど面白いのです。第一に「脚本家」」としての中島哲也の力量が見事です。あの原作をこう映画化したという、その正統派の技術が素晴らしい出来。 そして演出家としての中島哲也が、今回は非常に抑制の効いたストロング・スタイルで、原作をねじ伏せています。いつもの中島らしさは、“That's the way・・・”のダンス・シーンと、直樹くんが引きこもっているところの描写に出ていましたが、それよりも本作のグレイッシュ・ブルーの暗く冷たい映像と時折見せるスローモーションが、この『告白』のトーンを決定づけています。 そこで描かれる中学生や親たちの姿から、今の日本のあらゆる病理が見えてくるように思えますが、そのような社会派的な問題意識などとは隔絶したところでエンタテインメントとして闘っている凄さが本作のキモです。もちろん黒板に大書された「命」の重みを考えるための作品では、さらさらありません。

全編を通じて、中島監督が映像を信じているってことが強烈に伝わってきます。いつものカラフルポップな映像という武器を、今回はより研ぎ澄まし、削ぎ落としたVFX映像によって、映画そのものに迫ります。そこには人間そのものも、2010年の日本そのものも映し出されています。 日本映画史に残る傑作であり、邦画洋画合わせた小生の上半期ベスト作品です。

p.s. 美月役の橋本愛ちゃんは、今後ぜったい出てきますよー。

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