「ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う」:孤高の石井ワールドだが…
映画『ヌードの夜 愛は惜しみなく奪う』は、石井隆ワールドを愛する者にはたまらない、メインストリームの石井映画です。夜、雨(しかも土砂降り)、逆光、長回し、極端に斜体のかかった縦組みのタイトル文字、そして男と女のどうしようもないやるせなさ。ああ、石井隆の“孤高”が、日本映画の奥行きを作ってくれています。
佐藤寛子のヌードが圧倒的に美しく、作品の大きな魅力となっています。映像表現の中における身体の威力というものについての明快な答がここにあります。素晴らしいです。 ただ、名美の雰囲気を漂わせてはいるものの、辛い過去から現在への転落は言及されているものの、終盤に来て、彼女が強過ぎます。打算的過ぎます。男と女の哀しい愛の悲劇になっていきません。そこが残念でなりませんし、“名美”ではない所です(実際、名前は「れん」ですけど)。
大竹しのぶ、井上晴美、宍戸錠といった有名どころのキャストが本作に合っていたかと言うと、確かにちょっと疑問ではあります。 むしろ刑事役の東風万智子の方が、すんなりとはまっていました。 彼女と竹中直人のラスト・シーンが、石井作品らしくもなく、ほんのり「希望」を感じさせるような暖かいものになっているのも、妙に居心地が悪かったです。石井隆の新展開なのかもしれませんが、ファンとしてはここはもっとハードボイルドに、ノワールに終わらせてほしいところでした。 とはいえレベルは高く、映像は素晴らしく、好きな作品には違いないんですけどね。
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