「わが心の歌舞伎座」:歌舞伎版「ザッツ・エンタテインメント!」
昨年4月に閉場し、2年11カ月の建て替え期間に入った歌舞伎座の最後の姿を追ったドキュメンタリー。2時間47分、休憩アリの長編ですが、少しも飽きることはありません。それどころかもっともっと観ていたいと感じるような出来の良さです。
劇場内部や裏方の模様を伝えながらも、メインは現在活躍中の役者であり、その舞台です。団十郎、玉三郎、勘三郎、幸四郎、仁左衛門、菊五郎などなどオールスターによる、それぞれ自信の演目の見せ場が次々と登場。
いわば歌舞伎版『ザッツ・エンタテインメント!』ですね。「藤娘」「暫」「勧進帳」「助六」「義経千本桜」「曽根崎心中」「弁天娘女男白浪」から「野田版鼠小僧」まで、名作のさわりをシネマ歌舞伎流のアップで、役者の汗や涙に至るまで堪能できるのです。 弁慶の飛び六法で花道から退場した団十郎が楽屋に戻るまで、ハアハア声をあげて息を切らしている凄さ!まるで100m走を終えた陸上選手のようでした。
一方で、衣装や床山や舞台美術などの裏方さんたちも描いております。幕間に総がかりで舞台を組み替える映像などは、もう圧巻! ギリギリ間に合って、幕が開くと別世界が広がっているさまには、感動を禁じ得ません。 またトンボ返りの練習をする砂場があるってことなどは、さすがに初めて知りました。
本当はもう少し裏側を見たかったです。例えば黒衣(くろこ)とか、3階席の大向こうさんとか、食堂や売店の人とか、イヤホンガイドの裏側とかね。
でも役者さんたちが劇場入りする時の神棚へのご挨拶とか、楽屋での様子とか、面白かったなあ。 泣けるようないい話も多かったです。「仮名手本忠臣蔵」で主君の切腹の場面、舞台上に並びきれない家臣たちが舞台裏で(客席からは見えないのに)みんなひれ伏しているところ!これですよ! また中村梅玉が歌右衛門の遺骨を抱いて歌舞伎座に別れの挨拶に来ると、舞台に「道成寺」のセットがしつらえてあって、鐘も吊ってあり、3階には大向こうさんが控えていて「成駒屋!」と声を掛けたとか・・・!
歌舞伎座建て替え前の姿を留めると共に、平成中期(?)の歌舞伎と歌舞伎役者を記録するという、非常に意義深いドキュメンタリーです。年月が経つほどに、その価値を増していくことでしょう。 それにしても唯一無二の素晴らしい劇場でした。
上映館の東劇から出ると、歌舞伎座跡地はこんな感じでした。
で、大江戸が所有しているお宝その1、歌舞伎座の舞台檜板で作った記念品。価値のわからない人にとってはカマボコ板みたいなもんでしょうが・・・。
お宝その2、鳳凰の座紋入り「菊丸瓦」です。屋根の突端に出てたやつね。
ああ、早く新しい歌舞伎座ができないかなあ、などと無茶な思いが頭をもたげるのでありました。
| 固定リンク
コメント