「わたしを離さないで」:わびさびと哲学
映画『わたしを離さないで』は、オドロキのSFなのでした。スティル写真や予告編映像からは、1960-70年代頃の英国の話なんだろう的な匂いが漂っていますが、それは一面では正しくもあり、実は正しくもありません。古典的なルックと語り口の一方で、大胆な世界を設定したSFなのだとは、しばらく前に何かの記事で知った時にはかなり驚きました。
カズオ・イシグロの原作を、マーク・ロマネク監督(あのロビン・ウィリアムズの怪作『ストーカー』の監督ですと)が実に端正に映像化しています。寂寞としながらも、懐かしく美しい映像です。ことに風景のロング・ショットの美しさたるや! 物語の語り口は抑制が効いていて、一級の映画表現となっています。 監督曰く「もののあわれ・わび・さび・幽玄」を意識したそうで、この発言を知った時にはなるほどと得心しました。
←このボードウォークの場面なんか、空や光の具合とかが遠近法的構図の中で、心揺さぶられる美しさでした。 それでこそ、この救いのない物語に、人生の美しさ、はかなさ、そして限りある命の尊さと輝きが浮かび上がるのです。
キャリー・マリガンいいなあ、好きだなあ。この「ふにゃっ」とした顔がいいんです。今回はそこに何とも知れぬ哀感が加わって、また見事。 彼女の子役(他の子役もだけど)がまた彼女にそっくり!成長に伴って役者が変わった時のスライドが実に自然。外国映画って、そこらへんかなりキチンと、違和感なくやってくれますよね。なんで日本映画だと、「それって顔のタイプがぜんぜん違うでしょ」って子がキャスティングされることがかなり多いですよね。どういうわけなんでしょうか?
ラストの切なさと無常感は、非常に哲学的なものです。やはりSFの『ブレード・ランナー』や『A.I.』がそうであったように・・・。 誰もが、人間の「生」の本質について思いをはせないわけにはいかなくなる、そんなエンディングでした。
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