「マイ・バック・ページ」:ダメな男たちを少女が断罪する
映画『マイ・バック・ページ』、山下敦弘監督の『天然コケッコー』以来4年ぶりの新作ということで大いに期待したのですが、うーん、悪くはないのですけど・・・、傑作には至らずというか。
最近少なくなったとても(日本)映画らしい映画で、丁寧に作られています。つまり脚本の練られ方、撮影、美術、衣装、ヘアメイクなどなどに、しっかりしたプロの技と密度が感じられるホンモノです。 でもねえ、なんか残念というか・・・、まあ残念なヤツらの物語ではあるのですけど。 どうにもこうにも松ケン演じる梅山がインチキなヤツで、そのインチキを見抜けず肩入れしてしまった妻夫木演じる沢田の悔恨、そこらを描く私小説的なハナシに2時間21分はちと長過ぎます。
まあ、1969とか70とかあの頃の時代って、男は現実離れした思想を自分の旗印として掲げながら生きなければならなかった時代、理論武装して虚勢を張って生きなければならなかった時代なんですよね、変に背伸びして。'76年生まれの山下監督と'77年生まれの向井康介(脚本)は、そんな男たちには入れ込まずクールにダメさを描き出します。 沢田が「男は泣いたりしない」的なことを言うと、忽那汐里が「私はきちんと泣ける男の人が好き」ってあたりが本作のキモ。少女はしなやかに、来るべき時代を先取りしているのです。 彼女が最後に事件について「とても嫌な感じがする」と語る時、男たちは断罪されるのです。
脇の役者さんたちが凄い存在感です! 長塚圭史、山内圭哉、古館寛治ら小劇場系演劇人の起用が成功し、「あの人誰?!」と驚くほどのリアルさと迫力(まあ長塚さんは知ってましたが)。その他にもあがた森魚がいい味。 三浦友和の黒っぽく骨の髄まで悪人な感じのアクの強さは、近作の『沈まぬ太陽』や『アウトブレイク』の悪役と較べてもより強烈で、短い登場場面なのに出色の出来でした。
それにしても汗とタバコの匂いで満たされているような画面です。そういう世の中だったのですよね。
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