「一枚のハガキ」:明日に向って立て!
新藤兼人99歳が自ら最後の作品だと語る『一枚のハガキ』は、確かに新藤作品の集大成の趣き。反戦と夫婦とを、そのままの直球で描きます。シンプルな物語を、演劇調の会話と芝居で迷いなく押し切ります。
何十年前とかにこの映画が作られていたら、必ずや音羽信子が演じたであろう女の役を演じるのは、最近の新藤映画の常連である大竹しのぶ。役柄の実年齢はさすがに大竹さんご本人よりもだいぶ若いと思うのですが、99歳の御大から見れば大した差はないのでしょうか? 長回しの中、名女優の意地を見せるかのような、オーバーアクトぎりぎりというか、ちょっとそこまで行っちゃうんですか?ってな芝居が凄いです。 一方の豊川悦司までそのテンションに引きずられて、相当に力の入った芝居で、ちょっと笑えます。
ちょっと笑えるヘンさがあるのは新藤作品の常で、ストレートに戦争反対を訴えようと、人が死のうと、どんなに悲惨なことが起ころうと、なんか笑えちゃうんです。それは、高齢監督ゆえにちょっと感覚がずれてて失笑するとかいうことではなく、昔からの資質なのだと思います。おおらかなユーモア。豊川と大杉漣のケンカ場面などは、その好例でしょう。それにしても、自主映画みたいなカット割りを、ぬけぬけとやっちゃってますねー。
ラストの麦畑がストレートに示す明日への希望、戦争からの復興は、たまたまでしょうけど(作品の完成は昨年なので)今の日本にぴったりのポジティブ・オーラを放っていました。「生」のたくましき輝きがありました。 晩年の新藤作品の中ではベストでしょう。
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