「ヒミズ」:泥だらけの純情神話
映画『ヒミズ』(ヒミズ=日見ずがモグラのことだとは、初めて知りました)は絶好調・園子温の話題作。相変わらず荒っぽいけど、バランス良くないけど、でもパワフルです。
ヴェネチア映画祭で最優秀新人俳優賞を受賞した二人(染谷将太と二階堂ふみ)の素晴らしさが、作品を輝かせています。泥だらけになり、水浸しになり、ビンタを張り合い、泣き、叫び・・・と、全身を使った熱演。まだ幼い二人の、ひりひりするような精一杯かげんを見て、小生は相米の『翔んだカップル』における薬師丸ひろ子と鶴見辰吾を想い出しました。まあ二階堂さんは、薬師丸というより宮崎あおい似なのですが・・・。
その他の面々も笑っちゃうぐらい「園ファミリー」でして--でんでん、吹越満、神楽坂恵、渡辺哲、黒沢あすか、光石研、吉高由里子、西島隆弘・・・。でも本作では染谷君とふみちゃんに食われたのか、みんなそこそこの芝居で終わっちゃってます。
3.11大震災の被災地でのロケが、良くも悪くもこの作品に独自の意味をもたらしています。絶望と再生への希望。あまりにも明快なメッセージがストレートに迫ります。 しかし大江戸は、この被災地のロケ映像が無かった方が、より普遍的かつ神話的な複雑さと強度を獲得したのではと思えてならないのです。そう、この作品は「神話的」です。オイディプスであり、アダムとイヴであり・・・そしてキム・ギドクの『魚と寝る女』が神話的であるのと同様に神話的なのです(池の真ん中に浮かぶ小屋!)。
(以下多少のネタバレあり) ラストで少女が叫ぶ「住田がんばれ!!」は自らへのエールでもあります。なにしろ自分用の真っ赤な首吊り台を作られた彼女の「地獄」は、まだ何も片付いてないのですから。それでも観ている私たちは絶望よりも、ほのかな希望を信じられる。なぜならそこには愛があるから・・・そんな園子温らしからぬラストに仕上がっているのでありました。
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