「わが母の記」:上質な映像と見事な役者陣
映画『わが母の記』は、日本映画の素晴らしさに満ちた秀作。とにかく映像の質が高く、画面を見つめることの至福を味わえる作品です。
芹澤明子撮影監督の力も大きいですが、美術、衣装、照明、そして役者の力も含めて、画面の厚みが違います。映画としての魅力と品格が詰まった絵作り。最近の日本映画では、ちょっとお目にかかれなかったレベルの仕事。そう、近年のクリント・イーストウッドの映像に近いと言うことができるのではないでしょうか。
役者がこれまた見事で、樹木希林さんはもう誰も真似できない世界ですし、役所さんの安定感はやはり当代一だと思います。キムラ緑子さんが助演賞ものの舌を巻く巧さ。足を足でかきながら電話かけてボヤいてるところとか、ラスト近くの泣きながらの電話とか、只事ではない芝居ですよ。でも映画賞の選考員って、意外と芝居を見る目が無い人が多いので、なかなかノミネートされないかもね。
ミムラもなかなか良かったですね。なんかミムラと宮﨑あおいの姉妹って、アリですね。とてもいい感じです。 それにしてもあおいちゃんは26歳にしてセーラー服の高校生姿があんなに似合っちゃうとは! 何の違和感もなく、高校生の顔してました。そんな彼女がだんだんと成長していく姿を演じ分け、最後の30代の頃は声を低めに発声したりしていて、動きからして大人っぽく、さすがは演技派です。彼女の演技にはいつも感心しますが、魅力的に撮られていたことに関しても、彼女史上で上位に来る作品でしょう。
世田谷の邸宅やら川奈ホテルやら軽井沢の別荘やら・・・昭和中期の上流一家の生活描写にも、非常に興味をそそられました。 とにかく全てに神経が生き届いた、上質な映画作品です。 母の死を大仰に描かない、そのディーセントな節度がまた素晴らしいじゃありませんか。
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