「ル・アーヴルの靴みがき」:ワビサビの人情ばなし
映画『ル・アーヴルの靴みがき』は、やはりカウリスマキらではの世界。淡々と、じんわりと、おじさん・おばさん(むしろじいさんばあさん)の世界で、良いです。
港町ル・アーヴルの陽光ってこともあり、いつもよりも色が明るい印象(といっても、単純な明るさではないんですけどね)。でも、庶民の、いやむしろ困窮した人々のつましい暮らしの描写が、そして人情がカウリスマキならではだと思います。とにかく「人情劇」ですね。落語にしたいぐらい。そしてパンとか酒とかが、シンプルに、でもやけにうまそうに描かれています。
じいさんと警部との敵対しあった距離が徐々に狭まり友情に至るあたりは、『カサブランカ』を思わせました。ここらがやはり人情ばなしとして王道なんですよね。
(以下ややネタバレあり) 最後にはズッコケちゃうような「奇跡」を用意してくれているのですが、この掟破りを成り立たせてくれるのは、ラストの桜。あの(日本のものからすると)貧相な感じの桜が咲いているショットで、すべてがオッケーになってしまう映画の不思議。それをわかっている「ファンタジー作家」としてのカウリスマキ。それにしてもあの桜、カラーの古びたようなトーンといい、'50年代頃の日本映画のようです。やはりカウリスマキはワビサビの人です。
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