「乱れ雲」:とんでもない主人公
銀座シネパトスの成瀬巳喜男特集、最後のプログラムで遺作『乱れ雲』を観ました。ところがこの作品、カラーってことのみならず、従来の成瀬作品のクォリティとは大いに様相を異にしていたんですよねー。
何と言っても主人公の加山雄三がとんでもない奴でして、ここらへんって当時の物事の尺度からすると「アリ」なんですかねえ?いやいや、そんなことはないと思うんですけど・・・。 だって、不可抗力ということで無罪の判決を言い渡されますが、人ひとり轢き殺しちゃてるのに、ほとんど申し訳なさそうにせずに、むしろ堂々と偉そうにしているんです。被害者の妻であった司葉子に対しても全く悪びれずに、常にずけずけとしたもの言いで、笑顔すら浮かべて、観てる者としては当惑しあきれ返ってしまいます。しまいには自己チュー的不満のあまり、司に対して逆ギレすらする始末。いったい何なんでしょう、こいつは? 当時は若大将だったから、これでもオッケーだったのでしょうか?
それなのにあり得ないことに、この二人のメロドラマに発展していくのですから・・・信じられません。説得力がありません。加山がずうずうしく司を訪ねていくあたりの無神経さやオレ様かげんには、腹立たしさすら感じるのですが、本作を好きな方も大ぜいいらっしゃるようで・・・、世の中は広いです。
ラスト20分ほどの演出力は、確かに多くの人が賞賛しているように素晴らしいものがあります。言葉によらず、絵で心を明示していく技の冴え! でも、そこまでの流れがねえ。 成瀬が大好きなだけに、がっかりなのでした。
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