「声をかくす人」:まじめな正義の伝統
映画『声をかくす人』は、ロバート・レッドフォード監督作品らしい「まじめさ」一本槍の佳品。でも、その真面目さは『スミス都へ行く』『摩天楼』『十二人の怒れる男』あたりから、連綿として流れているアメリカ映画の良心の部分でもあるのです。それを引き継ぐレッドフォード。クリント・イーストウッドとは別の意味で、アメリカ映画らしさを継承する偉大な映画人だと思います。
序盤、状況説明をしている間は結構描くべきことの整理に手間取っているという印象でちょっと眠かったのですが、裁判がスタートしてからは映画がキチンと転がっていきました。やはり裁判映画というのは、その丁々発止のせめぎ合いで面白くなるものと決まっておりますし、ここでは軍法会議の裁判で市民を裁くこと、死刑ありきの誤った裁判への告発が、力を持って観る者に訴えかけます。周防正行監督の『それでもボクはやってない』『終の信託』にも通じる、司法制度への正義の告発。
「正義」がアメリカ映画の伝統であり、しかしながらストレートに正義を描くことが時代遅れのようで気恥ずかしかったりする今日。それでも正義を描きたい人は『キック・アス』や『スーパー!』みたいに、ひねった形で扱うことが賢明な世の中になっております。それでもレッドフォードは、あくまでもど真ん中の直球勝負です。ただ本作はやや端正過ぎて、作品としての「土性っ骨」が弱いような気がすることも、残念ながら確かです。
ジェームズ・マカヴォイ演じる弁護士は、’70年代なら絶対ロバート・レッドフォード本人の役どころ。マカヴォイの表情やしぐさを見ていると、これがやけにレッドフォードに似てたりするんですよねー。 ロビン・ライトは抑制が効いた「内面を覆い隠した」演技で、彼女のキャリア中でもベスト級ではないでしょうか。
バカ息子のしょーもなさが、(苦いけれど)ある意味で非常に効いている作品でした。
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