「カミハテ商店」:末期のコッペパン
映画『カミハテ商店』は、京都造形大学発のプロと学生のコラボによる映画作りプロジェクト「北白川派」の作品。 地味です。暗いです。でもそこらへんが、日本映画のひとつの典型でもあります。
「カミハテ」ってなんだ?と思うと、これが「上終(かみはて)」なんですね。バス停に書いてあって、ああここの地名なのねとわかるのです。でも後でこの映画のサイトとか見ると「山陰の小さな港町」とか書いてあるんですけど、そんなの聞いたことないよなあと調べていくと・・・、なんと京都造形大学前のバス停が「上終町京都造形大前」なんですね! なるほど、やられました。
高橋惠子が(たぶん)老けメイクでおばあちゃん役に挑んでます。淡々と口数少なく、重いオーラを漂わせながら。 回想シーンでは若い顔つきになっていて、こちらの方が彼女の現在形に近いのだと思います。
高橋が静かなる「死」の“おくりびと”ならば、猥雑な「生」の体現者が寺島進。 サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』(キャッチャー・イン・ザ・ライ)に、「未成熟な人間の特徴は、理想のために高貴な死を選ぼうとする点にある。反して成熟した人間の特徴は、理想のために卑小な生を選ぼうとする・・・。」という一文がありますが、寺島は(多くの大人と同じように)後者の代表。この、ある種観念的な作品の中で、一人だけリアルに血が通っています(あと寺島の会社の事務員役の女子が、妙にリアルな空気を醸していて、とてもいい感じでした)。
自殺者が最期にこの店で買うのが、(唯一おいてある食料品の)自家製コッペパンと瓶の牛乳。これがまあ、まずそうなんです(チラシやポスターで見ると、うまそうなんですが)。これが最後の食事ではあまりにも哀しい・・・だから自殺やめようよ、ってわけでもないのでしょうけど、ほとんど味がなくてまずそうです。まあ「食のミニマリズム」的、原点的なものかもしれませんが(キリスト教のパンとワインのごとく)、大江戸はこれが最後の食事だったらイヤだなあ。 近作では岩井俊二の『ヴァンパイア』でも、自殺者の最後の食事が「こんなんじゃイヤだ」とか言ってもめるシーンが印象的でしたけど。 小生の場合、最後は「うな重」&ワインと決めております。 でも話を戻すと、まずそうなんだけど、見てると食べてみたくなっちゃうんですよね、このパンと牛乳・・・。
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コメント
最後は油そば、ラーメン、スパゲッテイとか小麦粉系がいいなあ。
お店がとんこつラーメンか何かだったら、「どーんと行けよ」とか明るいキャラになっちゃいそうですけどね(映画の高橋恵子が役そのまんまでとんこつラーメン作ったら凄くまずそうだ)。
投稿: ふじき78 | 2012年12月15日 (土) 22時36分
ふじき78さん、コメントどうも。
小麦粉系いいっすねえ。讃岐うどん、ほうとう、すいとん、白玉・・・。あっ、白玉は上新粉だった。
投稿: 大江戸時夫 | 2012年12月15日 (土) 23時02分