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2012年12月13日 (木)

「東京家族」:小津版に負けぬ秀作

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昨日、映画『東京家族』の完成披露試写会に行きました。上映に先立って山田洋次監督と主要キャスト8人による舞台挨拶。なんだか山田監督の言葉を聞いただけで(早くも)目頭が熱くなってしまった大江戸です。

しかし本編は予想以上に素晴らしい出来。あの『東京物語』を下敷きにしている(っていうか、これはやっぱり「リメイク」ですよ)だけに、どうしても後発の分の悪さを抱えているわけですが、そんなことをものともせずに堂々と“ザ・松竹映画”の傑作を作ってくれました。

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出だしの松竹マーク(富士山)に続くメインタイトル『東京家族』の字体が、小津の『東京物語』と同じでニヤリ。 橋爪功のしゃべり方が笠智衆を真似ているとか、部屋や廊下の撮り方だとか正面向きで話す構図だとか、やけに小津安二郎へのオマージュだらけです。こちらとしては「山田洋次だって立派な監督なんだから、そこまでへりくだらなくっても・・・」みたいに思うのですが、うーん、松竹の伝統と遺産へのリスペクトなのでしょうか。ただ、さすがにところどころ「今日び、さすがにこんなしゃべり方はしないだろう」ってところもありまして、気にならなかったといえば嘘になります。

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それでも映画にぐいぐい引き込まれます。小津版より10分長い2時間26分の作品ですが、全く長いとは感じません。家族の描き方や子供のからませ方は、小津版をベースにしながらも『男はつらいよ』的なニュアンスを感じさせるものです。終盤、独身の英語教師が蒼井優を二度見して乗っていた自転車が倒れてしまうあたりの空気は、まさに『男はつらいよ』でした。

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時代の移り変わりも印象的でして、『東京物語』では老夫婦が銀座の松屋の屋上へ行きますが、本作では池袋の西武の屋上(東武の看板も見える所)。老夫婦のおもむく観光地が、熱海の温泉旅館から横浜のホテルになっています。そこで騒いでいて老夫婦の眠りを妨げるのも、社員旅行らし気団体客から中国人観光客へと変化しています。なかなか感慨深いものがありますね。

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演技陣のアンサンブルも素晴らしいのですが、林家正蔵が始めの方で「どうもすいません」(!)と言っていたのが個人的にはツボでした。 この映画に正蔵さんが出てるって、・・・「家族の正蔵(肖像)」ですね。

橋爪さん、吉行さんのコンビネーションは実に味わい深く、特に吉行さんの無限のやさしさと「いい人」感は最高です。 この映画、昨年の大震災で撮影延期となるまでの老夫婦役は菅原文太と市原悦子でした。そちらも見て観たかったとは思いますが、今回のキャストで正解です。 さらに長女役が室井滋から中島朋子に替わったわけですが、ここは元々が杉村春子の役だっただけに室井の方が適役でしょうねえ。ただ、中島もただの「生活にまみれて非人情になってしまった女」ではなく、彼女独自のキャラクターを作っています。ただ、そこで『東京物語』的キャラクターとの齟齬がどうしても生じてしまって・・・うーん、難しいところです。しかしながらクライマックスとも呼ぶべき悲しい場面で、彼女がメガネを取って突然泣き崩れた演技には衝撃を受けました。意表を突かれたというか、あれで一気に熱い涙が太い筋になって、多量に流れてきました。この映画、終盤はかなり気持ちよく泣かせてくれます。

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一方で夏川結衣の見せる「そこはかとない腹黒さ」が、微妙にスリリング。こういうところが、大人の映画です。

妻夫木聡・蒼井優のカップルは、山田監督の『息子』における永瀬正敏と和久井映見の空気感。っていうか、山田洋次は既に『息子』('91)で、小津を(または本作の予習を)やっていたんですねえ。 それにしてもこんな「いい子」の役(小津版では原節子)を無理なく演じられるのは、やはり当世では優ちゃんでしょう。

エンドタイトルがいわゆる「タイトルロール」(せり上がってくるタイプ)ではなく、昔の映画のような一枚づつ数人~十数人の名前が出てきては切り替わるタイプ。しかも短め。こっちの方が人数を絞ったりしなくてはいけないのかも知れませんが、今見るとかえってオシャレです。で、最後に「終」と出ます。 これをきっかけに、こういうエンドタイトルの復活を望みます。

万人にお勧めできる秀作だと思いますし、一方では『東京物語』の偉大さと普遍性を再発見できる映画でもあります。

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