「フラッシュバックメモリーズ3D」:映画のキュビスム
映画『フラッシュバックメモリーズ3D』は、72分とコンパクトな音楽ライブ映画。しかしながら、驚くべき実験を行った作品でもあります。
ディジュリドゥというオーストラリアのアボリジニのデカイたて笛みたいな楽器、これを演奏するGOMAさんのライブ映像のバックに彼の足跡をたどるライブを中心とした記録映像が流れます。極端に言えば、それだけの映画です。でもそこに巧みな企みが仕込まれているのです。
松江哲明監督が「3Dはレイヤー」と語る通り、ここでは前面にGOMAを中心とするバンドのライブ、後景にホームビデオのような記録映像、時として最前景に字幕、といった二重三重のレイヤーが同時に多くの情報を投げかけてきます。同時に発信する複数のレイヤーが、「文字と映像」「過去と現在」「ステージと生活」「心と体」といった相反する要素を統合し、掛け算効果を生じさせているのです。 3Dを単に視覚効果として使うのではなく、情報伝達の新しい形態として使うという試み。あたかも絵画における「キュビスム」が、前から見た顔と横から見た顔を一つの画面に統合して表現し、脳内に3Dとしてのイメージを構築させたような働きです。 本作は、映画におけるキュビスム的な挑戦だと言えるでしょう。
事故で記憶喪失になったGOMAが、突然アボリジニ絵画みたいなものを描きだしたり、反対にディジュリドゥの吹き方を忘れちゃってたり(でも体は覚えてたり)ってあたり、素材の特殊性に頼ってはいるのですが、やはり凄いですねえ。ライブのステージの大きなカンペに「静岡でライブ中」とか書いてあるんですよ。そうしないとステージ上で自分がどこで何をしてるのかわからなくなっちゃうかも知れないってことなんでしょう。うーむ。
それにしてもディジュリドゥってのは不思議な楽器ですね。プリミティブで、スーパー・ナチュラル。そもそも、この楽器のこっち側に飛び出している様を表現したいってとこから、松江監督は3Dにしたいと思ったんじゃないかなあ、まず最初は単純に。
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