「愛、アムール」:あなたや私のことでもある
映画『愛、アムール』は、確かに問題作ではありましょうが、作りは実に端正。ハネケらしからぬストレート・パンチです。前作『白いリボン』以上に、特有の「嫌な感じ」は薄められ、よりマジョリティーに支持される作品となっています。
認知症と老老介護、この長寿社会ではどこの国でも抱えている問題でしょう。しかしながらこの問題は当事者にならないと、なかなかリアルなものとして受け止められないのも事実。そういった意味では、本作のリアルな描写と重苦しさは、かなり価値のあるメッセージなのだと思います。 しかしながら、本作を観てて何故かベルイマンの『叫びとささやき』が頭をよぎったのですが、あの厳しさと至高の芸術的テンションと較べると、『愛、アムール』はまだまだですねえ。
ジャン=ルイ・トランティニャンが、すっかりいいおじいちゃんになってしまったので驚きました。彼も、そして彼以上にエマニュエル・リヴァおばあちゃんが素晴らしい演技。言葉に出ない感情や、日を追うごとの変化を見事に表現しています。
イザベル・ユペール演じる老夫婦の娘の無理解や批評的態度が、「当事者以外の世間」を代表しています。無知による理解の不可能性。でもそれはあなたであり、私であり・・・、一方でトランテイニャンの取った行動もあなたであり、私であり・・・ということなのだと思います。そして病になったおばあちゃんもまた、あなたであり私であるのだと・・・。
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