「アンチヴァイラル」:ビョーキとアート
デイヴィッドの息子、ブランドン・クローネンバーグ初の長編『アンチヴァイラル』は、父親同様に体温の低い変態性に満ちています。
主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズがまさにその世界を体現していて、肌全体に浮かぶソバカスともども心も体も「ビョーキ」そのものです。彼が幻想の中で「ひょっとこ」(としか言いようがないのですが)に変貌してしまうあたりは、この映画のビジュアル的(“クローネンバーグ”的)コアであります。
題材やテイストがここまで父親似だと・・・って思うけど、そうは言っても個性ってのは消せないもので、クローネンバーグJr.の方がよりクールに21世紀的な印象。対するシニアの方は、やはり20世紀が薫ります(アップ・トゥ・デイトな意匠の『コズモポリス』においてさえ)。
そして子クローネンバーグの方が、明らかにアート寄りに思えます。写真のブレて歪んだ顔は、モロにフランシス・ベーコン。枕についた血が、抽象画に見えます。白い床に血を吐いてその上をのたうちまわる様は、アクション・ペインティング。ラストの奇妙な物体も、まさに現代美術の一典型ですよね。
しかしながら抑制が効きすぎて、今一つ面白くなり切れなかったことも事実。 いずれにせよ2作目で点が線になり、3作目で面になった時の、この映像作家の全貌を括目して待つとしましょう。
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