「コンプライアンス 服従の心理」:神経をすりつぶすような傑作
映画『コンプライアンス 服従の心理』は意外なほどの傑作。90分の小品ながら、最初から最後までいやーな気持ちにさせてくれて、映画館の椅子に座り続けるのが苦痛なほど。卑劣さに対する怒りやら何やらで、もう胸が苦しくて・・・。これほどまでにエモーションに働きかける映画も他にはありません。観ていて、体の具合が悪くなっちゃいそうでした。
これが実話に基づく映画だっていうことに戦慄し、暗澹たる気分になります。そしてこの映画、リアルな再現ということにおいて、実によく出来ています。脚本も、演出も、役者たちの演技も、見事にこの「嘘のような本当」の事件の映画化に生命を与えて、ぐぐぐいっと引き込みます。よくよく考えればヘンな話だったり、おかしな点が多いわけですが、ギリギリでそれを信じさせる詐欺のように精緻な映画作りのおかげで、一応の説得力を持って、突き進んでいくのです。
(以下少々ネタバレあり) それにしてもひどい話ですが、あの犯人は何が目的だったのでしょうか。何十件も罪を重ねていたようなので、たぶん愉快犯なんでしょうね。実際の罪状としてはそんなに重くないのかも知れませんが、この映画を観ていると死刑でも飽き足らないぐらいに思えてしまいます。そこがこの映画の凄さかも知れませんね。 一方でファストフード店の店長の立ち位置の興味深さ、これが更に映画を不快かつ深いものにしています。つまり誰もがこの店長になってしまったかも知れないというやりきれなさ。彼女にムカつきながらも、一方で彼女が自分のことを「被害者」だというのもあながち間違いではないかもと思ってしまうのです。
精緻にしてこれだけインパクトの強い作品を作り上げた新進のクレイグ・ゾベル監督には注目しておきたいと思います。
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