「風立ちぬ」:風の吹く「美しい」恋愛映画

満を持してというか、ようやく映画『風立ちぬ』を観ました。大人に向けた宮崎駿アニメ。多くのお子様は、「??」な場面、頭を素通りしていった場面が多かったのではないでしょうか。
でも割り切ってそうしたことによって、とても味わい深い映画になりました。関東大震災の表現や、大正から昭和にかけての衣装や美術、宮崎さんこだわりのドイツの飛行機、そして死病の妻との夫婦愛の描写etc. とても上等なお酒をいただくような、コクと深みとまろやかさ。
空を飛ぶ夢、宮崎の飛行機愛ゆえに、飛翔、滑空場面は、いつも通りに素晴らしい幸福感に溢れています。でも本作ではむしろ草原を吹く風、紙飛行機を運ぶ風といった風の描写が秀逸だったのは、まあタイトルを考えれば当然のことなのでしょう。風の表現において、酒井抱一の「夏秋草図屏風」と同等に評価したいほどと言っては褒めすぎでしょうか? 風によって傘が飛ぶシーンも2回あり、大江戸としては『ライアンの娘』『野獣刑事』と共に、「3大傘飛び映画」に認定したいところです。
時代色あふれる二郎と菜穂子の恋愛から結婚生活の一連の描写が素晴らしく、本作で繰り返し使われた台詞を借りて言えば、「美しい」--これに尽きます。胸に迫るものがあり、泣けました。 ラストには仕事と愛のどちらも絶望へと変わるのですが、「それでも生きていく」という人生の真実があっさりと描かれます。「生きねば」という広告コピーのように肩肘張っていないところが、72歳宮崎の達した境地なのでしょうか。二郎は終始淡々と、すべてを受け止める人として描かれます。あの黒ぶち丸メガネに萌えるメガネ男子ファンは多いことでしょう。
今夜のNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』が、宮崎駿を3年間追っかけた、本作の制作ドキュメンタリーでした。その中で画面に示された名言が、「大事なものは、たいてい面倒くさい」。うーん、まさにそうです。深く首肯できます。そもそもアニメーション作りほど面倒くさいものもないと思いますが、口癖のように「面倒くさい」を連発しながら作品を作り上げていく宮崎さんを見ていると、「そもそも人生ってもの自体が面倒くさいんだよなあ」と思えてきます。それでも、「生きねば」なのです。そのような生の全肯定こそが、宮崎駿なのだと思います。
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