« 渋谷ムルギーのカリー | トップページ | 山口果林の「安部公房とわたし」 »

2013年8月26日 (月)

「風立ちぬ」:風の吹く「美しい」恋愛映画

T0016599p

満を持してというか、ようやく映画『風立ちぬ』を観ました。大人に向けた宮崎駿アニメ。多くのお子様は、「??」な場面、頭を素通りしていった場面が多かったのではないでしょうか。

でも割り切ってそうしたことによって、とても味わい深い映画になりました。関東大震災の表現や、大正から昭和にかけての衣装や美術、宮崎さんこだわりのドイツの飛行機、そして死病の妻との夫婦愛の描写etc.  とても上等なお酒をいただくような、コクと深みとまろやかさ。

空を飛ぶ夢、宮崎の飛行機愛ゆえに、飛翔、滑空場面は、いつも通りに素晴らしい幸福感に溢れています。でも本作ではむしろ草原を吹く風、紙飛行機を運ぶ風といった風の描写が秀逸だったのは、まあタイトルを考えれば当然のことなのでしょう。風の表現において、酒井抱一の「夏秋草図屏風」と同等に評価したいほどと言っては褒めすぎでしょうか? 風によって傘が飛ぶシーンも2回あり、大江戸としては『ライアンの娘』『野獣刑事』と共に、「3大傘飛び映画」に認定したいところです。

時代色あふれる二郎と菜穂子の恋愛から結婚生活の一連の描写が素晴らしく、本作で繰り返し使われた台詞を借りて言えば、「美しい」--これに尽きます。胸に迫るものがあり、泣けました。 ラストには仕事と愛のどちらも絶望へと変わるのですが、「それでも生きていく」という人生の真実があっさりと描かれます。「生きねば」という広告コピーのように肩肘張っていないところが、72歳宮崎の達した境地なのでしょうか。二郎は終始淡々と、すべてを受け止める人として描かれます。あの黒ぶち丸メガネに萌えるメガネ男子ファンは多いことでしょう。

今夜のNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』が、宮崎駿を3年間追っかけた、本作の制作ドキュメンタリーでした。その中で画面に示された名言が、「大事なものは、たいてい面倒くさい」。うーん、まさにそうです。深く首肯できます。そもそもアニメーション作りほど面倒くさいものもないと思いますが、口癖のように「面倒くさい」を連発しながら作品を作り上げていく宮崎さんを見ていると、「そもそも人生ってもの自体が面倒くさいんだよなあ」と思えてきます。それでも、「生きねば」なのです。そのような生の全肯定こそが、宮崎駿なのだと思います。

|

« 渋谷ムルギーのカリー | トップページ | 山口果林の「安部公房とわたし」 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/42098/53044938

この記事へのトラックバック一覧です: 「風立ちぬ」:風の吹く「美しい」恋愛映画:

» 風立ちぬ(2013)〜美の失墜 [佐藤秀の徒然幻視録]
庵野秀明、瀧本美織サイコー!! 公式サイト。宮崎駿原作・監督、主題歌:荒井由実「ひこうき雲」。(声)庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊、西村雅彦、スティーブン・アルパート、風間杜 ... [続きを読む]

受信: 2013年8月27日 (火) 00時16分

» 【風立ちぬ】美しい飛行機と美しい夢 [映画@見取り八段]
風立ちぬ      監督: 宮崎駿    出演: 庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊、西村雅彦、スティーブン・アルパート、風間杜夫、竹下景子、志田未来、國村隼、大竹しのぶ、野村萬斎 公開: 2013年7月20日 2013年7月4日。劇場観賞。(試写会) 2週間も前に試写会で見たの…... [続きを読む]

受信: 2013年8月27日 (火) 01時33分

» 風立ちぬ [映画的・絵画的・音楽的]
 アニメ『風立ちぬ』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。 (1)随分しつこく前宣伝をしていましたし(特に、松任谷由美の『ひこうき雲』入りで)、興業収入が100億円達成かなどともいわれるので、見るのをやめようかとも思いましたが、久しぶりの宮崎駿監督作品でもあり(注1...... [続きを読む]

受信: 2013年8月27日 (火) 05時00分

» 風立ちぬ [象のロケット]
1923年(大正12年)9月1日。 東京帝国大学工学部航空学科在学中の堀越二郎は、関東大震災の混乱の中、明るい少女・菜穂子と出会う。 卒業後、大企業のエリート技師となった彼は、航空機の設計部署に配属される。 ちょうどそれは、日本が戦争に向かっていた時代。 彼が設計を任されたのは海軍の戦闘機だった。 避暑地で菜穂子と再会した二郎は、彼女と恋に落ちるのだが…。 スタジオジブリ・アニメーション。... [続きを読む]

受信: 2013年8月27日 (火) 15時18分

» 風立ちぬ・・・・・評価額1800円 [ノラネコの呑んで観るシネマ]
風立ちぬ、いざ生きめやも。 改めて、宮崎駿の凄さを思い知らされた。 零戦の設計者として知られる航空機技師・堀越二郎の半生をベースに、同時代の作家・堀辰雄の代表作で、山口百恵主演の同名映画でも有...... [続きを読む]

受信: 2013年8月27日 (火) 16時56分

» 風立ちぬ [とらちゃんのゴロゴロ日記-Blog.ver]
ジブリ製作の作品だけど子供向けではない。文学的であり夢想的でもあり、ただ生きることを賛美している。零式艦上戦闘機がもしなければ日本は太平洋戦争を起こせなかったと考えても、設計者の責任など問えない。大きな時代の流れで日本全体が向かった先を知っている我々は、... [続きを読む]

受信: 2013年8月27日 (火) 23時52分

» [映画『風立ちぬ』を観た(前篇)] [『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭]
☆・・・いやぁ、風が立ちまくっていました!!! たいがい 宮崎駿監督の独りよがりの作品に思え、批判する準備をしていたのだが、あまりの傑作に驚いた。 取り急ぎ、幾つかのことについて言及しておく。 なんか、マッチョ好きのホモの映画評論家気取りが、この作品の、...... [続きを読む]

受信: 2013年8月30日 (金) 14時02分

» 風立ちぬ いざ生きめやも [No War,No Nukes,Love Peace,Love Surfin',Love Beer.]
【48 うち今年の試写会5】 宮崎駿さんがはこの作品を最後に今度こそほんとに長編アニメ製作からの引退するって発表した・・・そんなん言われたら観に行っとかなあかんやんか~。  大正から昭和にかけての日...... [続きを読む]

受信: 2013年9月12日 (木) 12時12分

« 渋谷ムルギーのカリー | トップページ | 山口果林の「安部公房とわたし」 »