「ベイビー大丈夫かっ BEAT CHILD 1987」:ロックフェス界の「八甲田山」
映画『ベイビー大丈夫かっ BEATCHILD1987』は、'87年の夏に熊本の阿蘇で行われた伝説の野外ロックフェスのライブ・フィルム。10組のトップ・アーティストが登場するオールナイトのほとんどが豪雨の中で行われる過酷な状況。広告コピーの通り、まさに「史上最低で、最高のロックフェス」だったわけです。
阿蘇の丘陵地に作られた会場はまさに日本版ウッドストック。のどかで、きれいな所です。ここに集まった72,000人が地獄を体験することになろうとは・・・。地面は泥沼、雨が気力と体力を奪い、体温を下げ、疲労や眠気も募っていく--寒いのが嫌いな大江戸としては見ているだけで辛そうでした。状況を想像するに、観客も地獄、アーティストも地獄、スタッフも地獄、主催者も地獄って感じだったでしょう。今さら返金できないし、夏休みになけなしの金で遠くから来ている連中も多いし、売れっ子アーティストのスケジュールは代替もきかないだろうし、・・・とにかくやるしかない状況だったわけです。「天は我々を見放した」って、『八甲田山』かって言うぐらい過酷でして、実際バタバタ倒れた人たちが500人以上も体育館に収容されたのだとか。シドイもんです(今なら大ニュース、大問題です!)。
映画に関して言えば、状況説明は必要ですけど、トップバッターのザ・ブルー・ハーツが登場するまで30分以上ってのは長過ぎます。そして、妙に紋切り型の不要な言葉がだらだらと続き、最後までウザいナレーションには、がっかりします。そんなもん、いりませんよ。映像で語れます。ナレーションが役に立ったのは「渡辺美里が感電の危機を省みず裸足になった」ということぐらい。それだって、字幕でOKですし。
レッド・ウォリアーズのダイヤモンド・ユカイは、あんなに矢沢永吉みたいにマイクスタンド・パフォーマンスが得意だったのか。岡村靖幸は、あんなにマイケル・ジャクソンを意識したパフォーマンスだったのか。ボウイの布袋さんがピート・タウンゼントみたい、いやむしろアンガールズ山根みたいだ。尾崎豊がやけに丸っこく太目に見えて、ちょっと前髪クネオすら入っているぞ。・・・などといろんなことを思いながら鑑賞いたしました。
雨を免れたのはブルー・ハーツとレッド・ウォリアーズぐらいで、あとは全滅(まあトリの佐野元春の頃にはほとんどきましたが)。4組目の白井貴子の苦闘っぷりに較べると、ボウイの氷室京介などは易々と見事なパフォーマンスを繰り広げてました(映像では、雨は同じぐらいに見えるんですけどね)。尾崎豊に至っては、あたかも雨を自分の演出に利用しているみたいで・・・。世が明けて、ラスト・ナンバーが佐野の『サムデイ』ってのは、実に「ふさわしい」感じがいたしました。 でもせっかく感動のエンディングを迎えたのに、主催者のプロデューサー(現在)が画面に出てきて、「あの時はすみませんでした!」って言って謝るという場面にはずっこけました。苦笑するしかありませんね。
時代の記録としても貴重です。ケータイはなくて緑電話のコーナーがあるし、ペットボトルは目につかないし(渡辺美里は駅弁のプラ容器のお茶を飲んでいる)、女子たちはみんな大きなアラレちゃんメガネだし。
映像も音もかなり頑張って撮って(録って)いたと思います(特に音のミキシングは見事)が、かの名作『ウッドストック』には遠く及ばぬ出来でもあります。ナレーションの問題もありますが、『ウッドストック』はあのマーティン・スコセッシが編集してますから。映画も音楽もわかっている才人のワザの冴えがあまりにも見事なのです。ま、あれと較べちゃいけませんやね。
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