「鑑定士と顔のない依頼人」:語り口の妙と映画のコク
映画『鑑定士と顔のない依頼人』は、よく出来たお話、よく出来た知的娯楽映画です。映画好きの大人が詰めかけてヒットしているというのも、むべなるかなです。
ミステリーではありますが、深い謎解きやどんでん返しではないのです。ちょっとばかり推理小説やミステリー映画に慣れた観客なら、犯人は・・・って気がついて、で次はこうなるよねって方に進んでいきます。あまりにひねりがなくて、えっ、それでいいの?って思っちゃうほどです。それでも滅法面白いのは、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の語り口の妙であり、映画としての「コク」みたいなものなんですよね。
映画の「コク」とは画面の密度であり、そこから匂い立つペダンティックな美の様相だったり、フェティッシュな官能だったり、役者の妙演だったりするわけですが、本作にはそれらが全てあり、観る者の目と脳をもてなしてくれるのです。
(以降ややネタバレあり) それにしてもあの名画(女性肖像画)で埋め尽くされた隠し部屋の凄さ! そのビジュアル的アタックの強さと眼福感。そしてその稠密な壁面が、白一色になった状態のもたらすインパクト! そしてある絵の裏の署名がもたらす静かなインパクト! さらには・・・。 うまいなあ。トルナトーレは、映画の語り方の名人だなあ。
ジェフリー・ラッシュがいつも以上に圧倒的な名演。まあ八面六臂と申しましょうか、いろんな顔、いろんな感情をくさくなる一歩手前で見事に演じきって、圧巻です。
画面を埋め尽くす名画に加えて、内装・調度や食器、ファッションなどがことごとく一流の名品ならではの密度と輝きで、映像のクォリティを高めます。エンニオ・モリコーネの音楽も含め、いやー、映画って本当に総合芸術ですね。
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