「エレニの帰郷」:香気溢れる良作
映画『エレニの帰郷』は、ギリシャの巨匠テオ・アンゲロプロス監督の遺作(になってしまったんですね、事故で)。東映の配給(フランス映画社が協力)で、冒頭に荒波に△の東映マークが出てきて違和感たっぷり。でも公開に当たって東映の岡田裕介社長(なんとアンゲロプロス・ファンなんですと!)の果たした役割が大きかったと知って、びっくり。
ウィレブ・デフォー、イレーヌ・ジャコブ、ミシェル・ピッコリ、ブルーノ・ガンツといった各国のスターの起用や、英語のダイアローグ、それなりにドラマチックな展開、寄りの絵がところどころあって普通に映画的なわかりやすさもある、といったところがいつものアンゲロプロスとは違って、だいぶフレンドリーな感じです。 とはいえ、そこはアンゲロプロス。現在と何層もの過去が虚実入り乱れて交錯するし、説明的な要素は排除してあるので、やはり正直わかりにくい=スクリーン上で起こっていることの正確な把握が難しいのです。
でもその映像には圧倒されます。同じ方向を向いて歩く黒服の群衆。広場に集まった群衆が解散して歩き去る様子。ジグザグの鉄階段を黙々と昇る人々。深い霧。天空に上がっていって俯瞰するキャメラ。それらの長回しが、ああアンゲロプロスの映画だなあ(惜しい人を亡くしたなあ)という感じに、迫ってくるのです。スクリーンを見つめることが、素晴らしく濃密な映画体験になる作品です。そして、良質な映画としての香気溢れる作品です。
終盤、イレーヌ・ジャコブ、ミシェル・ピッコリ、ブルーノ・ガンツが駅の階段でダンスを踊る場面はグッときます。「時の塵」というこの映画の原題もここで発せられるのですが、名優たちの力もあり、人生が滲みだしてくる味わい深い場面となっておりました。 イレーヌは美しく、ブルーノ・ガンツ(ウイスキーの飲みっぷりがいい)が好演でしたねえ。
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コメント
TBありがとうございます。
ガンツ、しぶかったですね
投稿: 別冊編集人 | 2014年2月 3日 (月) 11時20分