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2014年5月10日 (土)

「そこのみにて光輝く」:映画の志と矜持

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映画『そこのみにて光輝く』は、多くの人が指摘しているように'70-80年代のATGやにっかつロマンポルノの世界。こういう日本映画、最近めっきりなくなったので、なんか新鮮です。しかも同じ佐藤泰志原作で函館が舞台の『海炭市叙景』とは違って、極度に「陰」&「静」ってわけではないので、とっつきやすい面白さも十分なのです。

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役者たちがみんな好演してています。綾野剛はここのところの多作の中においてベストの演技だと思いますし、池脇千鶴はとにかく現在の女優で一番うまい人なので、ここでも相変わらずの見事さです。 でも本作の収穫はむしろ菅田将暉。こういう役って大きな芝居すればいいってもんじゃないし、バカみたいな感じだけど、その中にしっかりとバカの奥行きやバカの愚かさやバカのまことを表現しないといけないんですが、彼の場合それがしっかりと出来ています。ダメさも愛すべき点も、過剰なほど開放的な演技に内包させています。大したものです。 伊佐山ひろ子や火野正平の存在感は、いつも通りに凄いです。

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それにしても登場人物たちが誰も彼もタバコを吸い続けていますねえ。近年、ここまでのチェ-ン・スモーキング映画は観たことがありません。タバコと酒と性と暴力で満たされているあたりも、'70-80年代らしさに拍車をかけています。

主人公男女の海中でのキス・シーンは実に「映画」です。一度波の下に潜るキャメラといい、斜めのアングルといい、あれが「映画」のセンスってものです。

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ラストの海辺のシーンで、朝日の光線と綾野と池脇の存在感ですべてを語る場面も、これぞ映画。突き詰めていった映画の表現。こういうのって、やっぱり今はなかなかないですよねー。これを成り立たせようという志と矜持が感じられる上質なシーンでした。

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コメント

おはようございます。
TBを送っていただき、誠にありがとうございます。
「近年、ここまでのチェ-ン・スモーキング映画は観たことがありません」と書いておられますが、まさにそのように思いました。『風立ちぬ』と同様、その時代設定から構わないのかもしれないものの、全体の雰囲気は現代の時点に立っている感じがしないでもないので、やや違和感を覚えてしまいます。
ちなみに、ご覧にならないかもしれませんが、現在放映中のTVドラマ『MOZU』では、西島秀俊と香川照之が滅多矢鱈とタバコを吸います。こちらは明らかに設定が現代ですから、どうしたことかと驚いてしまいます〔ネットの記事(http://ebisawayuki.com/blog/mozu/)によれば、「喫煙シーンの回数は合計21回。放送時間合計95分45秒のうち19分20秒」とのことです〕。二人共タバコの吸い方が板についておらず、普段は吸わないように思えますから、きっと何か理由があるのでしょうが。

投稿: クマネズミ | 2014年5月11日 (日) 05時12分

クマネズミさん、TB&コメントありがとうございます。
『そこのみにて光輝く』は作る側があえて時代設定を曖昧にしているように思うので、このタバコ描写によっても'70-80年代的なうらぶれた感覚を充填して、現代感覚を後景に追いやっているようなところがあるのではないでしょうか。
『MOZU』は気にかかっていながらも、第1回を見逃がしてしまったので、残念ながら見ていません。 それはそうと、先日ロバート・アルトマンの『ロング・グッドバイ』を見たら、フィリップ・マーロウ役のエリオット・グールドが全編にわたってタバコを手離さない史上最強のチェーン・スモーカーぶり(車に轢かれても吸い続けている)で、これには市川崑もびっくりでしょう。

投稿: 大江戸時夫 | 2014年5月11日 (日) 12時05分

何度もおじゃまして恐縮至極です。
『ロンググッドバイ』といえば、現在それを翻案したTVドラマがNHKで放映中ながら、そこでも第1話に登場した綾野剛(出すぎでしょう!)がタバコを吸っています!もちろん、主演の浅野忠信も吸うのですが、時代設定が1950年代なかばの東京ですから何の問題もありませんし、このハードボイルドにはむしろ必須なのかもしれません〔ギムレットと同様に:第1話と第2話では、ギムレットがロックグラスで出されるのに、第3話ではカクテルグラスで女性に出されるのを問題にしている実に愉快なブログがあります(http://oldfashioned.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/2-9a5a.html)〕!
なお、主人公が「車に轢かれても吸い続けている」のかどうか、まだ第4話と第5話を見ていないので、注目したいと思います。

投稿: クマネズミ | 2014年5月11日 (日) 20時19分

クマネズミさん、小生『ロング・グッドバイ』は大のお気に入りです(今回のTV化も、チャンドラーの原作も)。全5話が終了した所で何か記そうと思っています。ご紹介くださったギムレットにこだわったブログも見ましたが、ドラマ内の扱いも好意的に見ればそんなに変ではないと思うのですが・・・。
それと浅野忠信は車に轢かれたりしないと思います。アルトマンの『ロング・グッドバイ』は、相当にアレンジのきついヘンテコな作品なのです。

投稿: 大江戸時夫 | 2014年5月11日 (日) 20時49分

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