「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」:地味だけどうまいなあ
映画『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』は、コーエン・ブラザーズらしくないほど抑制が効いていながら、コーエン映画ならではの不思議な味わいがしっかり出ています。地味だけど映画としての品の良さ、質の良さがそくそくと胸にしみる作品です。
映像が、モノクロ作品として記憶してしまいそうなほどの渋さ。このスティル写真よりももっと渋い、「銀残し」みたいな色合い。とにかく、映画らしい良い絵なんですよねー。
でも描かれている現実は、かなり辛いもの。売れないフォーク・シンガーの日々。出口なしの日々です。それなのになぜか、ほんのり暖かいというか、人間の愛おしさ、素晴らしさすら感じさせてくれるあたり、コーエン兄弟の力量以外の何ものでもありますまい。全編通してそこはかとなくおかしいし、ネコもいいし。
キャリー・マリガンがあのふにゃっとした顔で可愛いのですが、あの顔なのに猛烈にルーウィンを罵倒します。汚い言葉の限りを尽くして全力でののしります。その迫力と、それにも関わらずのかわいさ。最高です。相変わらずうまいですね。
中盤の(変な歌の)レコーディング風景とか、終盤のライブハウスでの逆光の中(『レニー・ブルース』みたい)の弾き語りとか、歌う場面がしっかり見せ場になっているところも、作品に強度を与えていました。エンディングなども粋なもんですしね。
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