「イーダ」:新たな古典の誕生
ポーランド映画『イーダ』は、モノクロ・スタンダードの画面があたかも数十年前の作品であるかのような錯覚を与えます。いや、それよりもむしろ端正で繊細で見事な映像演出の手技が、古典のような風格を醸し出しているからこその錯覚なのでしょう。
画面の構図--人物や物の配置だとか切り取り方、画角--の素晴らしいセンス。同じように見えてもベルイマンの絵と決定的に違うのは「温度」。本作の映像(撮影監督=ウカシュ・ジャル、リシャルト・レンチェフスキ)には、ほんのりとしたぬくもりがあるのです。クロースアップもロングショットも見事なフレーミングで、多くのショットにおいてずっと見続けたくなる衝動に駆られます。
主役のイーダを演じるアガタ・チュシェブホフスカ('92年生まれ)は、本作前には演技経験が無く、今後も演技は続けないそうなので、まさに一期一会的な好演となっています。映画的な良い顔をしています。なんだか見飽きない顔。美しい人間性が滲み出ている顔。聖なる顔。
そもそもこの映画自体が、数年に1本しかない「聖なる映画」だと言えるでしょう。修道女が出てくるとかいうことではなく、作品がピュアで尊さを湛えていて、混ざり気や邪心のない純粋映画なのです。
パヴェウ・パヴリコフスキ監督の演出は、説明を少な目に抑え、映像で物語っていきます。まさに上質の映画だと言える抑制の効いた表現と、その効果の豊かさ。ほんのちょっとした表情やしぐさやカメラワークがどれだけ雄弁であることか。そして映画的センスの良さ。
今回の日本公開は「新しい古典の誕生」であり、「新たな名匠の発見」であると言えるでしょう。たとえば『ミツバチのささやき』(ビクトル・エリセ監督)初公開時のような・・・。
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