「ジェノサイド」:怒涛の超エンタテインメント
2011年3月に単行本が出た際のの広告とか書評とかで気にはなっていたものの未読だった高野和明の小説『ジェノサイド』(上・下巻/角川文庫)をようやく読みました。
いや、面白い! 日本、アメリカ、コンゴを舞台に、スケールの大きなある種の冒険譚が、緻密なエンタテインメントとして語られていきます。でっかいウソをつくためのリアリスティックな細部の調査量のとてつもなさに圧倒されます。そして日本側とアメリカ側を交互に描きながら、次第に全貌を判明させていき、コンゴでの凄惨なバトルへ突き進んでいく見事な構成力。さらに、物語を骨太にしているサイエンス・フィクション&ポリティカル・フィクション&人間のダークサイドの要素を、きっちりと織り込むその構築力。まさに怒涛のスーパー・エンタテインメントです。
こういうの読んでると、小説家としての頭脳と剛腕に感嘆します。私小説の純文学を書いた方が、一般に世間の評価は高いのでしょうが、手間もアタマも筆力も、こっちの方が段違いにかかっていて、並大抵の作家には書けない凄みがあります。ああ、だからこっち書いた方が儲かるわけですね。まあそれも当然でしょう。
これ角川文庫ですし、もともとは角川の『野性時代』に連載されていたのだそうですが、昔の角川だったら絶対超大作映画にしていましたよね。それぐらい鮮やかに映像が目に浮かぶ作品ですし、現代のVFX技術でなら比較的そこそこのバジェットでも制作できちゃうのではないでしょうか。もちろんハリウッドが総力を結集して作ってもいい、それぐらいの作品ではあります。
日本のエンタテインメント・ノベルで、これに匹敵する、または凌駕するものというと、村上龍の『半島を出よ』でしょうね。スケールが大きく、リアルで骨太な剛速球エンターテインメント巨編。随分前に韓国で映画化しているような話を聞いたのですが、あれはポシャッちゃったんでしょうかねえ?
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