福原義春の新書「美」
小生の尊敬する福原義春さんが今年の初めに上梓した、その名も『美』というPHP新書。副題は『「見えないものをみる」ということ』。
資生堂社長、会長を経て、現名誉会長。更に東京都写真美術館館長、企業メセナ協議会会長、文字・活字文化推進機構会長などなど多くの公職をも務める1931年生まれの福原氏は「美の人、文化の人、教養の人」であり、このようなタイプの趣味人が企業の経営者としても一流だったということにおいて稀有な、そして嬉しい存在なのです。
本書の中でも福原さんが投げかける問いや指摘は常に普遍的であり、幅広く深い文化的素養をベースにした本質的なものです。日本人と日本文化の特質を見事に解き明かしながら、その存続が危うくなっている現代に警鐘を鳴らすのが本書なのです。 各章のタイトルを挙げると、1.文明は文化を駆逐する 2.日本の美意識とは何か 3.想像力は自然から誕生する 4.本物を知る 5.教養とは何か 6.見えないものをみる--ねっ、面白そうでしょ。
そして福原さんは文化の力を信じています。だから最終章で、「日本と言う島国が、もっと多様性を深め、絶対的な価値を創造できるよう文化力を高め、人間性を高めるならば、地球上から失われては困る民族、国家として認識され、存在感を高めることができるはずだ。 それ以外にこの国が生き残る道はないのではないだろうか。」と結論づけるのです。
あとがきにある「美とは、人間にとって正義や愛と同じような、いわば本能的な価値である。」という言葉も、まさに福原イズム。 また福原さんが30代の頃出会って、以後人生の指針の一つにしているという「馬鹿不平多し」(学びが少ない者は、たいてい、いつもまわりのせいにばかりしている)という言葉も、自戒のために心に刻んでおきたいものです。
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