「嗤う分身」:レトロフューチャー不条理劇
映画『嗤う分身』って、タイトルが優れていますよね。「邦題賞」ものです。原題の“THE DOUBLE”=分身 に「嗤う」をつけたセンス。そして「笑う」ではなく「嗤う」ってところ。あの蜷川幸雄監督の『嗤う伊衛右衛門』も陰鬱で神経症的な作品でしたが、本作もまさに「ダーク・ニューロティック・サスペンス」って感じです。
原作がドストエフスキーってことですが、一応現代劇にアレンジしてあります。でも現代とは言っても、「大昔の人が想像した未来」としての現代って感じで、いわゆるレトロ・フューチャーってやつでしょうか。例えば東宝特撮映画における宇宙船や科学基地の操縦席や計器類みたいな、あるいは『鉄腕アトム』的デザインのオフィス機器。薄暗い室内。映像のルックとしては『未来世紀ブラジル』のようでもあります。カフカ的世界ってことで、東欧を感じさせるものもありますよね。
それにしても暗欝で、不条理で、観ていて気が滅入ります。おまけにドッペルゲンガーもの特有のイライラ感とか、主人公が『裏窓』ばりの覗き野郎だったりすることによるダークな隔靴掻痒感とか、フラストレーションの醸成には事欠きません。ジェシー・アイゼンバーグやミア・ワシコウスカの顔も、なんか不安定で不快な要素を含んでいますもんねえ。
我々は日本人だから、劇中に流れる『上を向いて歩こう』や『ブルー・シャトー』に何か楽しい思いを抱いてしまいますが、外国の方々にとっては、ますますもってストレンジな異空間を造り出す音楽演出なのでしょう。
不条理劇って、終わらせ方が難しいですよね。本作もまたスッキリとは行かずに、陰鬱な「???」が頭の中で渦巻くばかりなのでありました。
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