「アゲイン 28年目の甲子園」:裏テーマはラブストーリー
映画『アゲイン 28年目の甲子園』を試写会で観ました。ごひいきの波瑠ちゃん目当てです。 脚本・監督は大森寿美男。「ことぶき美男」って、けっこうスゴイ名前ですね。
娯楽映画としてまずまず上出来でした。(原作のせいかも知れませんが)ダイアローグのユーモアががなかなか結構です。ただ撮影では、ところどころに妙な手持ちズームインが入ったりするのが??でしたけど。
波瑠はけっこう出ずっぱりでして、芝居の見せどころもたっぷり。ショートカットに大きな瞳が印象的です。決してうまくはないけれど、ヘタなわけではないし、相変わらず透明感あふれる清々しい個性です。 その分、門脇麦が本作ではひたすら「嫌な感じ」。 中井貴一、柳場敏郎はさすがに安定感がありますし、いい味出してます。和久井映見はやけにオバサンチックでしたが、実年齢では10歳上の中井貴一に合わせるための老けメイクだったりするのでしょうか?
「ちゃんと負ける」ことの大切さをテーマにしていて、そこが本作の美点の一つです。「ちゃんと負ける。そのために毎日を一所懸命積み重ねていった」なんて(言いまわしは多少違っているかも)台詞があって・・・、うん、良いですね。ごまかしたり流したりしないで、人生において「ちゃんと負ける」ってことは、次の段階に進むためにとても重要なことだと思います。
終盤に来て、評価が一ランク上がりました。それというのも、不意を突いて「恋愛」の要素が突如立ち上がって来たから。それまでも少しづつは伏線を敷いてきた中井と波瑠の年の差カップル。突然波瑠が「甲子園で私とキャッチボールをしてください」と頼む場面で、その照れ方の一方で頭をもたれかけさせる「押し」にドッキリ。終盤になって、それまでの作品のトーンとは異質な要素が突然出てきたので、観てる方も驚いちゃいます。中井の心の動揺と迷いを表すような手の動きも、きちんと効いています。
(以降ネタバレあり) しかしその後で、中井の娘(門脇麦)が突然心変りして親子和解のキャッチボールをすると、それを見た波瑠はもう吹っ切れてしまいます。後日中井が彼女の通う大学で待ち伏せをしていると(ストーカーに近いですよね)、彼女はもう冷めた当惑を身にまとっています。その後に二人でキャッチボールをするのですが、ここで笑顔の波瑠は中井(坂町という役名)に言うのです、「坂町さんもちゃんと負けることを覚えて、先に進んでくださいね」。二人の関係を暗喩的に表現した、ちょっと残酷に突き放す見事な台詞です。和解した父娘を目の当たりにしたことで、すっかり冷めてしまったのですね。これをラストに持ってきたことで、作品が新たに甘酸っぱくもほろ苦いラブストーリーとしての裏の顔を見せました。そこが最高にスリリングでした。
それにしても、あれだけ父を呪い憎しみ続けていた娘(門脇)が、突然心変りしたことについての説明やきっかけが何もないってのは、いかがなものか? 納得がいきませんです。
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