「みんなのアムステルダム国立美術館へ」:市民の声と専門家の領域に関する考察
映画『みんなのアムステルダム国立美術館へ』の前作という『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』は未見でした。でも、そのダイジェストが本作の前半に長めに使われているそうなので、本作が「決定版」ってところですね。
いやー、面白かったです。充実の97分。なにしろ美術館大改修が決定してから再オープンするまでの10年間のすったもんだを凝縮しているのですから。そして大改修がどのように行われたかのドキュメンタリーではなく、どうして進まなかったのかのドキュメンタリーなのですから。
反対を繰り返す「権利ばかり主張して、理解しようとか歩み寄ろうという姿勢のない」サイクリスト協会の奴らに腹が立ちます。ええ、大江戸はこの場合、圧倒的に美術館の味方です。自転車なんか迂回させればいいじゃん!と思うのですが、そこは自転車大国オランダですから、人々の意識が違うんでしょうねえ。
「民主主義の悪用だ」とか「この国は民主主義のマッドハウスだ」なんて発言も出て来ますが、まさにそうだと思います。市民の声の強さが、トゥー・マッチです。過ぎたるは及ばざるがごとし。 何事につけても、「思いつきのような浅薄な意見」と「長い時間と多くの智慧を集めたプロフェッショナルな見解」とを同列に扱う愚かさには落胆させられ、怒りをも感じます。民主主義というのは「素人が専門家の領域にあれこれ口出しすること」ではないはずですから。もちろんプロの側にも、一般人の意見を真摯に聞き入れ、専門家として(高いレベルでの)解決を図る責任があることは、言うまでもありませんが。
この作品の魅力は、そんな長年のゴタゴタを人間喜劇的に描いたことだけではありません。収蔵作品の清掃、修復、収蔵庫の様子、オークションの様子、展示の様子などなどを見せてくれたことも、美術ファン、美術館ファンにとってはたまらない魅力です。
2013年4月のオープンの模様も最後に映し出されます。いろいろあったけど、それぞれの人にとって「仕事冥利」に尽きる開館となったようで、何よりでした。いつか訪れてみたいものです。
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