「愛して飲んで歌って」:ヘンだけど物足りないレネの遺作
映画『愛して飲んで歌って』は、昨年逝去したアラン・レネの遺作。あのぶっ飛んだ自由な快作『風にそよぐ草』(’09)から5年後、91歳での監督作です。こちらもぶっ飛んでいると言えばぶっ飛んでおります。
舞台劇のような書き割りや調度、装飾の中で、演劇的な物語が繰り広げられます。その人工的な色彩や約束事としての空間がなんとも言えませんね。それでもショットのサイズは寄りや引きを織り交ぜて、映画的に撮っています。そこにまた舞台中継とは違った不可思議な感覚が宿ります。
最大の驚きは、人物がバストショットになった時にバックが(その時点で後景にあるはずの壁や柱ではなく)網目模様になるという技法。なんか突然コミックの一コマみたいに、たとえばロイ・リキテンシュタインのポップアートみたいな感じになるのです。その唐突な衝撃、その割にそんなインパクト表現を使う理由もなく、まさに唐突なお遊びになっているあたりが、相変わらず自由過ぎるレネ先生です。まあ2度出て来るモグラ(これがまたモロつくりもので!)のショットなんかも、笑いも凍るほど自由ですけど。
終盤の自由な展開とヘンなエンディングもこの流れ。そもそもキー・パーソンのジョルジュって男が最後まで登場しないんですから。でもどこもかしこも今一つ物足りないんですよねー。
大江戸としては『風にそよぐ草』の方がずっと素晴らしいと思いますねえ。スリリングなまでの自由さの落としどころが、見事にスコーンと突き抜けておりました。
とは言え、レネはやっぱり『去年マリエンバートで』なのです! 合掌。
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