「ディオールと私」:上質なファッション・ドキュメンタリー
映画『ディオールと私』は、2012年にクリスチャン・ディオールのデザイナーに就任したラフ・シモンズが、8週間で54着のオートクチュールを仕上げて(ふつうは4-6か月あるのだそうです)、パリ・コレクションでのデビューを飾った日々のドキュメンタリー。華麗なファッションの舞台裏に密着していて、いやー面白かったです。
ラフは基本的にメンズの既製服が出自ですし(まあジル・サンダーではレディースもやっていましたけど)、ミニマル・デザインの人と思われていたし、フランス語もあまり話せなくて・・・だからディオール工房のベテランのお針子さんたちにしてみれば、完全に信頼できる存在ではなかった。つまり「アウェイ状態」だったわけですね。 でもその彼が粘って、こだわって、その作品自体(彼はディレクションはするが、自分でデザイン画を描かない)で、自分をだんだん認めさせていくのです。超一流ブランド(グラン・メゾン)がもたらす重圧や、創作と共同作業をめぐる葛藤を乗り越えて・・・。
最後にはお針子さんたち総出で、ギリギリまで作品を手直ししてクォリティを高めていきます。多くのトラブルやハードルの果てに、ショー本番を迎えます。もう、ショーの途中からラフ・シモンズがうるうる来ちゃってます。ショーのクォリティが、作品のクォリティが、つまり成功だったことが伝わってきます。フィナーレの挨拶を嫌がっていたラフが、そわそわうずうずして自ら出ていくあたりの幸福な可笑しさ。
説明的に多くを語ることはしないけれど、それなのにラフと周囲の人々の緊張や興奮や感動が見て取れるように作られています。ニュートラルな視点と節度のある編集によって、これだけディオールの宣伝になっているのにクサさを感じさせずに、エンタテインメントとしても成立しているあたり、お見事な手さばきだと思います。
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