「ジヌよさらば ~かむろば村へ~」:笑ったけれど不気味さも
映画『ジヌよさらば ~かむろば村へ~』は、相当笑えました。松尾スズキの頭の良い(計算された)笑いが、次々と炸裂していきます。シチュエーションで笑わせ、台詞で笑わせ、芝居で笑わせ、アクションで笑わせ・・・と多くのバリエーションを持っているのも、さすがなのです。 思えば十年前の松尾×松田龍平タッグ作『恋の門』も、バカバカしくふっとんでいて笑えましたもんねえ。
例えば阿部サダヲの村長のバカバカしいほど荒っぽい動作がもたらす笑い。バスを運転しながら猫をよけ、次に白菜をよけるあたりのシュールなアホっぽさ。そして大江戸が一番気に入った「カッコイイじいさん!」がらみの笑い。ここらへんは、ちょっと他の人にはマネできない感覚ではないでしょうか。それにしてもあの「三谷幸喜ネタ」は、三谷さんも許可したんでしょうかねえ?
松尾さんご本人はミミズの精のような不穏な邪悪さを湛えて、不気味な男を演じていました。田舎の風景の中、田舎の人々の中で、まさに「異分子」の暗黒を体現しておりました。
松尾さんはやはり役者を面白く生かす名人なので、本作では大人計画の役者もそれ以外の役者もみんな、それぞれの個性で楽しませてくれます。阿部サダヲ・松たか子なんて『夢売るふたり』の夫婦が、その後田舎に越して来たみたいじゃないですか。
そんな中でも小生がその独特の個性を買っている中村優子さんが、ここでも魅せてくれました。宿の女将の顔と母親の顔の使い分けもさることながら、「くたびれた風情」を武器にしちゃってるとこなんて、ほとんど反則ですよね。終盤に彼女があたかも「ザリガニの精」みたいに描かれているあたりを含めて、この「得体の知れない和装女性」には『ツィゴイネルワイゼン』の大谷直子と同質のシュールな冥界感を感じました。
そうそう、ザリガニが雨のごとく降ってくる場面には、ポール・トーマス・アンダーソンの『マグノリア』(こちらはカエルですが)を思い出さずにはいられませんでした。どちらも意味わかんない、いや意味を求めてはいけない感じですしね。
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