« 「脳内ポイズンベリー」:笑えて楽しめる娯楽映画 | トップページ | 「龍三と七人の子分たち」:珍しく「普通のコメディー」だけど・・・ »

2015年5月 3日 (日)

「セッション」:狂気と才能の激突するパワフルな傑作

350927_001
映画『セッション』は筋肉が疲れるほどの緊張と重圧を強いられる映画ってことにおいて、『ゼロ・グラビティ』以来の力作。しかもクライマックス=ラストの圧倒的な熱量と見事さにおいて、全てをなぎ倒すような秀作でした。強靭で1秒も無駄がありません。

軍隊もの、スポ根もののように、狂気のスパルタ指導を行うJ.K.シモンズの凄まじい怪演に圧倒されます。ほんの微かな音程や速さのズレを聴き取る才能を、説得力を持って演じ切るあたりが、只ならぬ力量です。アカデミー助演男優賞も当然の迫力。でも、これってむしろ「主演男優賞」じゃないの? (お、そういえば本作も『バードマン』もドラムスの映画です。)

350927_006

いくらなんでもこれじゃあもっと早くに停職くらってるでしょ、って感じのスパルタ&モラハラぶり(何しろ椅子投げつけたり、ビンタしたり・・・)と、それでも内面でその教師に洗脳されて、その狂気の哲学に染まっていく主人公。こういう洗脳って、世の中に「あるある」ですよね。ストックホルム・シンドロームなんかも、その変形でしょう。

350927_002

しかし本作が真にスゴイのは、やはりクライマックス=ラストの演奏シーンにおける二人の心理の激突と変容のドラマ。まさに広告コピーに用いられている「ラスト9分19秒の衝撃」です。そこでの複雑な心理のバトルが、映像として観る者に明示されていく快感。映画でしかなし得ることのできないインパクトフルな表現です。 そこでのカット割り、ショットのサイズ、編集のタイミング、二人の間をぶんぶん往復するキャメラ・・・圧巻です。 ラストカット後、暗転してタイトルが出た時には拍手が起きました。

350927_004
(以降ネタバレあり) このクライマックス=ラストにおいて、最後には真の「神演奏」の前に、二人が『恩讐の彼方に』(菊地寛)状態になってしまうところに震えが来ますね。 この凄い仕事を成し遂げた監督(デイミアン・チャゼル)は本作を撮った時、まだ28歳だったそうです。彼自身による脚本も、あきれるほど巧緻ですし。 うーん、オーソン・ウェルズやスティーヴン・スピルバーグ級ではありませんか。

今年の大好きな映画『はじまりのうた』は最初から最後まで「音楽って素晴らしい!」感に溢れているのですが、本作はそれとは正反対のベクトルで、音楽の「魔」を描き切った傑作なのです。

|

« 「脳内ポイズンベリー」:笑えて楽しめる娯楽映画 | トップページ | 「龍三と七人の子分たち」:珍しく「普通のコメディー」だけど・・・ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 「脳内ポイズンベリー」:笑えて楽しめる娯楽映画 | トップページ | 「龍三と七人の子分たち」:珍しく「普通のコメディー」だけど・・・ »