「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」:運転席での地獄巡り
映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』の原題は“Locke”。主人公の名前がアイヴァン・ロックなので、そのLockeです。本作は恵比寿ガーデンシネマ改めYEBISU GARDEN CINEMAの都内単館公開ですが、似たような題名の『その土曜日、7時58分』も恵比寿ガーデンシネマの公開作でした。
自動車の中での2時間少々を、主人公と数人の相手の交わす電話の会話だけでもたせるというアイディアの映画。登場人物一人です(声の出演は多いのですが)! 演劇には一人芝居というジャンルがありますが、映画ではちょっとお目にかかれません。
タイトルには「偽りあり」で、物語内の時間は86分ではありません(前記の通り2時間少々。もしかして3時間ぐらい?)。冒頭ではサッカーの試合が始まる前、終盤では試合が終わってますので、それだけで2時間程たっているはずですから。86分ってのは本作の上映時間なのですが、それをタイトルにって、そんなのアリ?
とにかく最初から最後まで、観ていることが辛く苦しい映画です。一人しか出ていないので、感情移入せざるを得ないこの主人公が陥っているドツボの状況が、時間の経過とともに更に更に悪化して行って、しかも電話を切るたびに「一難去ってまた一難」的に次のトラブルがやってくるという、動かない「地獄巡り」状態なのです。仕事トラブルと、愛人の出産トラブルと、それによる女房トラブルが、かわるがわるの波状攻撃で襲ってきて、しかも運転しながらの電話だけという状況なので、これ心の弱い人だったら発狂しますよ。短い映画なのに、どっと疲れます。
トム・ハーディは、この全編一人芝居を見事にこなしました。まあ、自業自得的だとはいえ、もともと最高の仕事人(建築、特にセメントのプロ)であり、よき父親であることが観客にも示されます。それなのに、たった2時間程の間に全てを失った(かのような)彼を観続けてきた我々は、その「人生の落とし穴」の辛さ、残酷さに呆然とするしかないのです。
終盤、息子が電話をかけて来て、父親も応援しているサッカーチームの試合の決勝ゴールの模様を、事細かに語ってくれるところ、そして録画してあるから「まだ試合結果を知らないつもりで一緒に見よう」って言うあたり、主人公ならずとも泣けてきますね。このサッカーの使い方が、まさにイギリス(イングランド)なのであります。
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コメント
>冒頭ではサッカーの試合が始まる前、終盤では試合が終わってますので、それだけで2時間程たっているはずですから。
あっ…言われてみればそうですね。
病院に向かう時「1時間半くらいで着く」と言っていたので(実際は着きませんでしたが)、そこはあんまり違和感ありませんでした…(^-^;
投稿: りお | 2015年7月25日 (土) 13時56分
りおさん、どうも。
ふふふ、そうなんです。サッカー・ファンとしては、即座に気づいてしまうのです。
投稿: 大江戸時夫 | 2015年7月25日 (土) 22時50分
こんばんは。
この映画、公式HPでもいろんな宣材でも、リアルタイム展開だと宣伝してますね。私もそのつもりで見てました。監督自身もリアルタイムを強調してますし。
でも大江戸さんおっしゃる通り、サッカー試合時間考えたら、これ2時間くらいのお話なんでしょうね。
で、私の推論ですが、当初の脚本では2時間リアルタイムの物語として書かれたんだと思います。が、編集してみると、特に前半が間延びしてテンポが緩いと気がついて、無駄なシーンをカットして縮めたのではないでしょうか。
まあ、気分的には、リアルタイムだ、と思って見る方が楽しめると思います。映画史的にもヒッチコック「ロープ」、ロバート・ワイズ「罠」、ジンネマン「真昼の決闘」とかリアルタイムものに異色作、秀作が多いですからね。
投稿: Kei | 2015年7月26日 (日) 23時21分
Keiさん、むむむ、なるほど。そういうこともあるのかも知れませんね。小生が1ヶ所「あ、ここは時間がジャンプした」と感じたのは、セメント部隊の若いのが走って(作業員を確保しに)酒場へ急行するところ。当初話していた時間よりもやけにあっさりと到着したのでありました。
投稿: 大江戸時夫 | 2015年7月26日 (日) 23時31分