« 「Mr. タスク」:I Am the Walrus | トップページ | 「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」:運転席での地獄巡り »

2015年7月21日 (火)

「きみはいい子」:もっと寛容なゆるさを! 

350803_004
映画『きみはいい子』は、真摯な社会性に満ちた本年屈指の秀作です。呉美保監督作品としては、昨年の『そこのみにて光り輝く』よりも成長していると思います。

幼児虐待、学級崩壊、痴呆老人、などなど現在の日本が抱える問題を映画として見事に処理しながら、本質的なメッセージの強さを損なわない。しかも説教臭くもならなければ、娯楽に利用しただけにもならないという離れ業に成功しているのです。

350803_002

『そこのみにて光り輝く』に続いて呉監督と組んだ高田亮による脚本が見事です。原作の良さもあるのでしょうけれど、3つの物語をからませるようで実はからませずに描いて、しかも水面下でのつながりを感じさせる技の冴え。 「先生、先生になってよかったなって思うのはさ、大人になっても給食で揚げパン食べられることなんだよね。」なんて台詞は、原作にあるのでしょうか?それとも高田亮のオリジナルなのでしょうか?

350803_001
高良健吾、尾野真千子というメインの二人を支える役として、池脇千鶴、高橋和也の二人が効いています。考えてみればこの二人、『そこのみにて・・・』では全く違うタイプの役を演じていましたもんね。高橋なんか極悪人が極善人に変わってしまいました。 あと、おばあちゃん役の喜田道枝さんが、「こういう人いる」って感じに上品さと慈愛を湛えて、「いい人」の素晴らしい雰囲気を醸し出していました。 逆に「悪い人」の違和感やヤバさを感じさせてくれたのは、児童を虐待する継父役の松嶋亮太。こちらも嫌悪感溢れる(褒め言葉)好演でした。

350803_008
現代日本が抱える問題の多くは、人間のコミュニケーションに関するもの。そして、一人一人が他人の気持ちにもうちょっと寄り添ってあげられれば、他人にもう少し寛容になってあげられれば、ほとんどは解決する問題だと思うのです。人間(特に子供)は間違いを犯すもの、完全ではないもの、という前提で物事を考えれば、そして子供は親だけが育てるものではなく、地域や社会全体が育てていくという考えを持てば、世の中って随分と素敵なものになると思うのですけどね。子供にとっても、親にとっても、それ以外の人にとっても。 逆に言えば、「あそび」や「ゆるさ」のない不寛容な息苦しさが、全てを窮屈にしてしまうのです。

「ギュッと抱きしめることの効用」、確かにありそうです。

|

« 「Mr. タスク」:I Am the Walrus | トップページ | 「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」:運転席での地獄巡り »

コメント

お早うございます。
「先生、先生になってよかったなって思うのはさ、大人になっても給食で揚げパン食べられることなんだよね」という台詞は、原作(ポプラ文庫本)の43ページでは、「先生、先生になってよかったなと思うのは、大人になっても給食の揚げパンが食べられることなんだ」と記載されています。

投稿: クマネズミ | 2015年7月24日 (金) 07時30分

クマネズミさん、そうなんですか!
セリフとして発音した時に自然なように、微妙な変更を加えているのでしょうね。
うちの学校のは、きなこあげパンでした。当然大好きでした。

投稿: 大江戸時夫 | 2015年7月24日 (金) 13時16分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「きみはいい子」:もっと寛容なゆるさを! :

» きみはいい子〜桜の花びらが飛ぶ範囲に [佐藤秀の徒然幻視録]
公式サイト。中脇初枝原作、呉美保監督。高良健吾、尾野真千子、池脇千鶴、高橋和也、喜多道枝、黒川芽以、内田慈、松嶋亮太、加部亜門、富田靖子。「オカンの嫁入り」、「そこの ... [続きを読む]

受信: 2015年7月21日 (火) 23時04分

» 「きみはいい子」 [元・副会長のCinema Days]
 とても良い映画だ。観る者によっては“話の中身が甘い”と感じるのかもしれないが、これは決して事態を悲観していない作者のポジティヴなスタンスが現れていると見るべきだろう。第37回モスクワ国際映画祭で最優秀アジア映画賞を受賞したが、もっと格上の映画祭にも堂...... [続きを読む]

受信: 2015年7月22日 (水) 06時32分

» きみはいい子 [象のロケット]
生徒や親に振り回されてばかりいる小学校の新米教師、認知症扱いされている一人暮らしの女性と自閉症の生徒、夫が単身赴任中で3歳の娘を傷つけてしまう母親とママ友たち…。 同じ町で暮らす人々の出会いを描く、ヒューマン群像ドラマ。... [続きを読む]

受信: 2015年7月22日 (水) 15時51分

» きみはいい子 [映画的・絵画的・音楽的]
 『きみはいい子』をテアトル新宿で見てきました。 (1)呉美保監督の前作『そこのみにて光輝く』が大層いい出来栄えだったので、本作もどうかと思って映画館に出向きました。  本作(注1)の冒頭は、仏壇にお茶を供える老女・あきこ(喜多道枝)の姿。  「皆で飲みま...... [続きを読む]

受信: 2015年7月24日 (金) 07時20分

» きみはいい子 ★★★.5 [パピとママ映画のblog]
幼児虐待や学級崩壊といった問題を通して愛について描いた中脇初枝の小説を基に、『そこのみにて光輝く』などの呉美保監督が映画化したヒューマンドラマ。学級崩壊をさせてしまう新米教師、親からの虐待を受け自身も子供を虐待する母親、家族を失い一人で暮らす老人といっ...... [続きを読む]

受信: 2015年7月25日 (土) 11時31分

» きみはいい子 [とりあえず、コメントです]
中脇初枝著の同名短編集を呉美保監督が高良健吾&尾野真千子主演で映画化したドラマです。 原作は未読でしたけど、この監督さんとキャストなので、どんな作品だろうと気になっていました。 日常に溢れている小さいけれど重要な社会問題を分かりやすく描いていて、 観ていて心が救われるような気持ちになる作品でした。 ... [続きを読む]

受信: 2015年7月25日 (土) 20時44分

» きみはいい子 [映画好きパパの鑑賞日記]
 呉美保監督の前作、「そこのみにて光輝く」のようなぶっとび感とカタルシスを期待していたのに、妙にドキュメンタリータッチで、ちょっと肩すかしかも。貴重な社会派作品だと思いますけど、どこかでみたような設定が多く、何ともいえない歯がゆさが。  作品情報 2014…... [続きを読む]

受信: 2015年8月 5日 (水) 06時17分

» 「きみはいい子」 [お楽しみはココからだ~ 映画をもっと楽しむ方法]
2015年・日本 配給:アークエンタテインメント 監督:呉 美保 原作:中脇初枝脚本:高田 亮製作:川村英己プロデューサー:星野秀樹撮影:月永雄太 2013年本屋大賞で第4位にも選ばれた中脇初枝の5編... [続きを読む]

受信: 2015年8月11日 (火) 00時22分

« 「Mr. タスク」:I Am the Walrus | トップページ | 「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」:運転席での地獄巡り »