「雪の轍」:人間なんて・・・
映画『雪の轍』は3時間16分ということとカンヌのパルムドール受賞作ってことで、身構えちゃうような作品です。でも、さすがというべきかぐいぐい来る作品の力があるので、長い会話シーンの連続であっても、全く退屈することはありませんでした。役者たちも見事です。
それにしても厳しい映画です。おちおち主要登場人物たちに肩入れできません。彼らの欠点や暗部を(さりげなく)これでもかと叩きつけてくるのですから。人と人との憎しみ合い、とりわけ夫婦の間の無理解と憎み合いが、スリリングを通り越して、いやー重いです。そう、ベルイマンの映画に近いかも知れません。寒々とした景色の中、人と人の葛藤、夫婦間の愛憎を描いた最大の巨匠の作品に似て、容赦なく、また哲学的に、人間の業(ごう)や愚かさを追い詰めていくのです。ずっしりと、「人間」に迫ります。
元俳優のホテルオーナー、アイドゥンも無意識に人をやり込めてり優位に立とうとする正確かも知れませんが、日本人宿泊客との会話なんか見ても、いい人じゃありませんか。彼、いろんな人から非難され過ぎです。 それに較べて若い奥さんニハルは、まあ世間知らずの上、美貌を生かして蝶よ花よと何不自由なく過ごしてきた人生が窺い知れるわがままな人で、その言動にはかなりイラッと来ました。自意識が強く、自分を悲劇のヒロインに仕立てようとするし、その一方で寄付名簿一つ領収書1枚満足に作れないし・・・。ほんと困った人だと思います。
カッパドキアの奇岩住宅の光景の面白さ。大いなる自然と、その中での人間たちの苦悩、そして夫婦の葛藤・・・そこらへんは先日観たリーンの『ライアンの娘』と似てるとも言えますね。ずっとずっとシニカル・バージョンですけども。そういえば本作は3時間16分、『ライアンの娘』は3時間15分なのでありました(後者はインターミッション入りですけどね)。
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