「ラブ&マーシー 終わらないメロディー」:さても面妖な不協和音なり
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』は明るく楽しいビーチボーイズ映画にあらず。ブライアン・ウィルソンの精神的クライシスとブレイクダウン、及び父親や精神科医との葛藤を描く苦渋に満ちた作品です。その「ポピュラリティー」の期待を裏切る只ならなさは、映画における『ペット・サウンズ』的な位置を示しているのかも知れません。とにかく面妖な映画です。誰をターゲットに作っているのかと思ってしまいます。
大江戸はこの映画とは関係なしに、今春『ペット・サウンズ』のCDを購入して、結構聴き込んでいたのです。天啓ですね。確かに1,2回聴いた時点では「なんだ、こりゃ?」だったのですが、聴き込むうちにその凄さにひれ伏したくなる特異なトータル・アルバムです。 その制作背景や録音スタジオのシーンなどもあり、かなり楽しめました。
ただ普通のミュージシャン伝記映画と違って、彼の音楽やアーティストとしての業績よりも、その精神世界の苦悩や難渋、そして中年になってボロボロだった彼の恋愛及び魂の煉獄からの脱出みたいなものに力点が置かれています。多くの観客にとって、不満の残る映画だったに違いありません。不協和音に満ちた作品とも言えますもんね。
でもこの面妖さの中に、ビル・ポーラッド監督の只ならぬ才能と、相当変わった個性が感じられて、面白かったなあ。製作兼監督だから、こんな変なもん作っても誰も止めなかったんでしょうけど、はっきり言ってどこか(そこはかとなく)異常です。
そんな異常な試みに加担(?)したポール・ダノ、ジョン・キューザック、ポール・ジアマッティも異常性にかけては人後に落ちない役者たちなので、見事にハマりました。中でもジアマッティは、陰湿な狂気を感じさせる悪辣さの表現において、助演賞ものの見事さでした。
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