「日本のいちばん長い日」:見事なクォリティーの緊密ドラマ
映画『日本のいちばん長い日』は意外と戦争映画大作が作られなかった戦後70年の目玉的作品。岡本喜八作品のリメイクと言っても、もう半世紀近くたっているのですから、現代の視点から1本の作品として評価すべきでしょう。
で、見事なクォリティーの作品でした。近年の原田眞人監督作品の例にもれず、脚本、演出、編集、撮影、音楽、演技、美術などすべてにわたって、現在の日本映画で達成できる最上級のレベルの仕事になっています。映画が美しく、タイトかつ懐の深さも併せ持ち、2時間16分の作品なのに、その密度の濃さで3時間ほどにまで感じられました。全編を貫く緊張感には只ならぬものがあります。
政府や軍のトップ、そして昭和天皇と、物語の中心はあくまでも国の中枢の人々。その終戦への数か月間の苦闘、逡巡、抗争を描きます。本作を見て「庶民の視点や殺されていった兵士の視点が無い」なんていうのはナンセンスで、一方では『この国の空』や『野火』みたいな映画があっていいし、もう一方ではこういう映画があってもいいのです。描こうとしていることが違うんですから。昔、黒澤明が言った言葉を使えば「赤い色を塗っているのに、青くないじゃないか!と文句をつけられ」ても困ります。
あのような状況下で、人々の心が狂ってしまっている中で、戦争を終結させるために粉骨砕身する男たちのドラマ。それは『金融腐蝕列島 呪縛』や『突入せよ! あさま山荘事件』や『クライマーズ・ハイ』とも共通する原田眞人監督お得意のフィールドです。戦争だって恋愛だって会社だって、全て始めるよりも終わる時の方が大変なんです。
鈴木貫太郎首相のタヌキぶりを老獪に演じ切った山﨑努の役者っぷりには、ほとほと感心しましたし、役所広司のいつもながらの安定感と奥行きもさすがでした。舞台中心でほとんど知らなかった中嶋しゅうが演じる東条英機のそっくり感(顔のみならず、そのものだと感じさせる演技全体)にも驚きました。 しかし最大の驚きは本木雅弘演じる昭和天皇で、顔が似ているわけでもないのに、完全にヒロヒトでした。発声、物腰、そして何よりも品格。本木さんって品があるなあと改めて感服しました。イッセー尾形や片岡孝太郎など過去の天皇役者に比べても、勝っていると思います。
若手の軍人たちが皆丸刈りになっていたのも、しっかりした映画作りとしてポイントの高いところです。近年の戦争映画ではなかなかコントロールできていない部分だったりするのですが、本作では(大人たちの髪型も含めて)見事でした。
戦争の継続へと暴走する軍部や青年将校たちを見ていると怒りがこみ上げますが、そんなモンスターたちを生んでしまった教育と報道と軍隊組織の怖ろしさを思うと、今の世相と照らし合わせて不安を感じないわけにはいきません。2度とこんな時代の訪れぬよう切に願い、日本が変な方向に進まぬように、それぞれ自らができることをやっていかねばならないと思います。
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