「岸辺の旅」:黒沢の円熟期のはじまり

映画『岸辺の旅』は、今年還暦となった黒沢清の新しい展開を感じさせる作品。今後10年間は「円熟期」として、世界から評価される名作を撮り続けるのではないでしょうか。
物語の中に普通に死者(幽霊)を登場させるというのは、能や多くの日本文学、映画が扱ってきたこと。そこから「限りある生」とか「人と人との思いや絆」、「世俗にまみれていると見えない真実」などが描き出されていきます。

本作でも浅野忠信が淡々と動き、語ります。その演技以上に、演出が淡々と「普通のこと」として描いているので、死者には「恐怖」や「驚異」はなく、むしろ場面によってはそこはかとないユーモアすら漂っています。

深津絵里の妻が、それを当然のごとく淡々と受け止めるのも面白いですね。最初っから何の疑問も違和感もなく、自然にこの事態を受け容れるのです。そこに「夫婦」の機微や、つながりの強さが浮かび上がるのが、本作のキモと言えましょうか。
そしてふかっちゃんはやはり、見事に巧くて、それ以上に魅力的なのです。42歳にして、この瑞々しい美しさ! ロングショットが多いもので、全身の動きから出ている「チビッコ感」がたまりませんね。地味な服の似合い方も、実にステキです。その上、相変わらず声が素晴らしいのです!

そくそくとしみ入る良い話です。でも、最高にスリリングな名場面は、ふかっちゃんと蒼井優の「女の対決」シーン。ここだけは、カメラも(小津張りの)正面アップの切り返しになって、そのピーンと張りつめた緊張感の中に、女二人≒女優二人の火花が散っていました。いやー、静かにコワかったですね。
でも音楽に関しては、なんであんなに堂々たる感じのオーケストラで慣らし続けていたんでしょう? 黒沢監督が意図して狙ったのでしょうけれど、どうにも大げさ過ぎて違和感を禁じ得ませんでした。ちょっと残念なところです。

そういえば序盤にはまだ深津、浅野の二人(『寄生獣』コンビ)の顔が割れて、変なバケモノに変身してしまう妄想が頭をよぎりましたが、その後は(映画に力があったので)すっかり忘れてしまいました。
テアトル新宿のロビーには、映画で使われた二人の衣装が展示してありました。腕を組んでいるところがキュートですね。
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