「白い沈黙」:エゴヤン印のサスペンス・ミステリー
映画『白い沈黙』は、冷え冷えとした雪景色のオンタリオ州(カナダ)を舞台にしたアトム・エゴヤンのサスペンス・ミステリー。寒々しく無機質なエゴヤンらしさもありますし、一方ではかなり娯楽映画の領域に接近しております。でも誘拐、児童虐待組織、8年間の年月、父親の愛、犯人との対決といったハリウッド映画的な要素を盛り込みながらも、完全に明解なスカッとした作りにならないあたりは、エゴヤンだから当然なのであります。
雪に閉ざされた田舎町での事件なんていうと、コーエン兄弟の『ファーゴ』を連想してしまいますが、やはりエゴヤンなので、深層に見え隠れする変態性はこっちの方が闇が深いです。
とりわけ犯人の造形などは、実にユニークかつ説得力に富んでいます。このケヴィン・デュランドって俳優さん、元はコメディアンなんだそうです。なるほど。人間の不可思議をノーマルさでくるんだ感じが、よーく出ておりました。
時制を交錯させながら、徐々に物語の収束へと向かいますが、明かされないままの謎も残ったりするあたり、あるいは観客の想像力に委ねたりするあたりは、いかにもエゴヤンです。冷え冷えとした誘拐&捜索する父親モノ(そんなジャンルあるのか?)として、小生は『プリズナー』よりも好きですね。
終盤にエゴヤンらしからぬカー・チェイス&銃撃のシークェンスもあったりするのですが、こういう作品の中に出て来ると(アクション映画という前提が無いので)リアルにコワイです。ヒーローには銃弾が当たらない、絶対に死なないなどというお約束が無いだけに、車なり自分なりが被弾して大変なことになるという恐怖をしっかり感じることが出来ました。 その後の犯人邸に警察が踏み込む場面の緊張感も同様。久々に味わえたリアルなサスペンス感でした。
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