「アンジェリカの微笑み」:プリミティブな自由さ
映画『アンジェリカの微笑み』は、今年106歳で大往生を遂げたマノエル・ド・オリヴェイラ監督が101歳の時に撮った作品。うーん、古めかしい中に、とてもとても「自由」です。アラン・レネ晩年(と言っても80代後半ですが)の『風にそよぐ草』や『愛して飲んで歌って』にも、老境の自由さを強く感じましたが、オリヴェイラ監督の「自分が映画を発明した」的な自由さには、もう何も言えませんよね。
最重要ポイントは、あの半生記以上前の映画を思わせる、プリミティブな特撮です。パッと現われ、パッと消え、モノクロ半透明になって空を飛んだり、部屋に浮かんだりする様が、「今日び、これやっちゃいますか?」って感じに、ある意味衝撃的。でもオリヴェイラさんとしては、「これでかまわんだろ。十分伝わるだろ。」って感じなんでしょうね。伝わります。楽しいです。特に男女二人の滑空シーンは、『スーパーマン』におけるスーパーマンとロイス・レインの空中デートや『世界中がアイ・ラヴ・ユー』においてゴールディー・ホーンがセーヌ河畔で浮遊・滑空するダンス・シーンのように、映画ならではの幸福さに満ちているのです。
撮影中ピントが合ったファインダー越しにアンジェリカが微笑みかける場面も、原初的な映画のワンダー(写真が動き出した)に溢れています。本当にオリヴェイラって人は、「生きる映画史」だったのだなあと、感慨深いですね。全体的には、ポルトガルの『雨月物語』とでもいった趣きが滲んでおります。
大江戸はオリヴェイラ監督をあまり高く評価する者ではありませんし、本作もそれほど気に入っているわけではありません。でも、(どこまで自覚的かわかりませんが)この変なユーモアは稀少であり、隣国スペインの巨匠ルイス・ブニュエルとの近さを感じる部分だったりして、チャーミングだなあと思っております。
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