「ハッピーアワー」:愛おしい5時間17分
映画『ハッピーアワー』は、5時間17分。上映は3部に分けて行われます。東京のシアター・イメージフォーラムでは午後1時開映で2度の休憩(そのたびに客席の入れ替えをします。その日に1部だけとか3部だけとかを観る人もいるので)をはさんで午後7時終映です。長いと思うでしょ。大江戸もそう思ってました。ところが嘘のようにあっという間の5時間余なのです。むしろもっと観たいというか、あと5時間分の『ハッピーアワー2』があっても観続けたいって感じの作品なのです。イメージフォーラムの椅子のおかげか、お尻や背中もちっとも痛くなりませんでした。ただ、整理番号順の入場なので、最前列とか極端にサイド前寄りの席だったりすると、しんどいでしょうねえ。
映画を観るというより、主要登場人物である4人の女性の人生のひと時を共に過ごしたと言う感じ。演者たちが無名のワークショップ参加者たちであるということも、リアルな市井の人々=どこにでもある人生 って感じを強く出していますし、5時間と言う長さが「他人事じゃない」「よく知った人たちの」あれこれだという感情を観る者に与えるのです。観てるうちに、この人たちと「お友だち」になっちゃうような感じ。
一つのシークェンスがえんえん10分、20分と続くようなことが結構あって、他の映画では味わったことの無い感覚を味あわせてくれます。例えば第1部において、打ち上げの長い会話の中に、流れの変化や進展があり、トイレに立つ者がしばらくして戻って来るといったリアルさもあり、まさに私たちの日常の光景。でも面白くて全く飽きないってのは、気の合った人たちとの飲み会では3時間、4時間があっという間に経ってしまうことと似ているように思えました。 第3部におけるもう一つの打ち上げ場面でも、社交的な雰囲気から、どんどんヤバイ領域に入って行くあたりの流れと空気の変化が、恐ろしくも見事でした。「省略せずに全部見せる」ことによって浮かび上がってくる真実ってのがあるんですね。
全編を通して描かれているのは、「大人が生きていくのってめんどくさい」っていうこと。いや、みんなそれぞれのめんどくささを抱えて生きていますね。(離婚した1人を除く)3人とも、そのめんどくささの中心にあるのが配偶者っていうのが、なんだか身もフタもない感じですが・・・。
それと、男性は「言葉」をコミュニケーション・ツールとして信じているのに対して、女性はあまり言葉に重きを置いていないというか、言葉以外の空気をとても重視しているって真実が、よーくわかります。
また女性において、「友人」の占める重要性は男性の比ではないってこともよくわかります。男って、(極端に言えば)別に友だちなんてどうでもいいってとこありますもんね。
こういうことって小生も人生経験の中でようやくわかってきたのですが、本作の脚本チーム(はたのこうぼう)って男3人なのによく書けたなあと感心しました。
面白くって、新しくって、でも普遍的で、ある意味で革命的な映画です。愛おしい5時間17分です(あ、だからこのタイトルなのか?)。 2015年の大きな収穫だと思います。
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