「母と暮せば」:最初の5分と最後の5分の落差
映画『母と暮せば』を試写会で観ました。予告編や山田洋次監督密着のメイキング・ドキュメンタリーなどを見て、涙ボロボロ必至の傑作だと思っておりました。果たして涙ボロボロはその通りでしたが、傑作だったかというと・・・。
うーん、確かに開巻5分は傑作でしたし、長崎原爆の描写は凄いインパクトで慄然としましたし、山田洋次の原爆への怒りを感じる、力の入ったものでした。一方で最後の5分(要するにエンドクレジット)で、あまりといえばあまりの描写に腰が抜けました。笑っちゃいますし、それ以上にへなへな・・・って感じです。丹波哲郎ですかっ!!
そこに限らず随所にヘンテコな描写がありました。レコード・ジャケットが宙を行く「透明人間」だとか、お化け屋敷のような幽霊たちとか、シルエットの使い方とか、結末なども「え?? それやっちゃいますか?!」って感じでしたし。 言いたくはないけど、「古くさい」描写がそこかしこに出て来るのです。山田洋次監督、84歳になったそうですが、さすがに感覚の「ズレ」が出てきたのでは? 近作の『東京家族』や『小さいおうち』においては、こんなことはなかっただけに、ちょっと残念です。そういえば黒澤明監督の晩年の作品『夢』や『8月の狂詩曲』にも、そういう古くさいズレを感じましたっけ。
とは言え、それ以外の部分は悪くないですよ。名人芸です。最初から最後まで随分泣かせてもらいましたし。みんな、いい人だってのも気分いいし。
吉永小百合さん、異常なまでに若かったなあ。70歳とは! まあ、それ言ったらニノさんも32歳なのに学生服似合い過ぎです。それと、(台詞にも「おしゃべり」とありましたが)あんなに母親としゃべる男の子なんていねーよ!と思いますけどね。
そして『小さいおうち』に続き出演の黒木華さんが、山田作品似合い過ぎです。そしてやっぱり巧いです。彼女の芝居で泣けた場面もありました。
反戦の思いを強く持つ3人(山田洋次、吉永小百合、坂本龍一)が魂を込めた作品だけに悪く言いたくはないのですが、ちょっと映画としての完成度には問題がありますよねえ。むしろ「 怪作」と言えるのではないかって気もいたします。
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