「美術館を手玉にとった男」:アートとは? クラフトとは?
映画『美術館を手玉にとった男』の原題は“ART AND CRAFT”。本作のテーマをよく表したタイトルです。どこまでがアートでどこからがクラフトになるのか? 贋作を見て感動したら、その贋作に価値や美点があるということでは? などなど、昔からある命題を、改めて考えるきっかけとなる作品です。
ドキュメンタリーではありますが、ヤラセすれすれというか、結構劇映画的な手法を使っています。電話を挟んで対決ムードの両者のカットを重ねて行く場面とか、展覧会に乗り込んでいく主人公と待ち受ける敵対者とか・・・。 そこらへんの微妙な作為、うさんくささもまた贋作を扱う本作に似合っていると言えましょうか。
贋作画家のマーク・ランディスが、なかなか興味深いキャラクターです。フレッド・アステアにジョン・マルコヴィッチをまぶしたような顔で、おとなしく自信なさそうな、ねちゃっとした話し方。統合失調症をはじめ、いろんな精神疾患を持っているようで、その一方での天才的画才にはほとほと驚かされます。
詐欺や金儲けが目的ではないことからもわかるように、ランディスの行動にはある種のイノセンスが溢れています。だからこそ、そこには上記したような「贋作とは?」という問いが、滲み出て来るのです。
さらに人間の不可思議の深奥にまで踏み込めるテーマだったのに、今一つ掘り下げが足りないようにも思えました。そこらの淡泊さがちょっと残念ではありますねえ。
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