「SAINT LAUREN サンローラン」:チャレンジングな力作
映画『SAINT LAUREN サンローラン』は、もう少し公開時期を遅らせても良かったのではないかなあ。昨年公開された『イヴ・サンローラン』との間隔があまりにも近くて、映画に疎い人だと、「あれ?あの映画まだやってなかったの?」とか「この前やってたのだよねえ」とかなってしまいそうですもん。でも映画としては、普通の伝記映画となっていた『イヴ・サンローラン』に較べて、こちらの2時間31分の方が力が入っているし上等です。
まあ昨年の『イヴ・サンローラン』は、サンローラン財団公認でもありましたので、イヴのゲイとしての奔放な部分などはそこそこの描写だったのですが、本作ではかなり思い切った描写が多く、なるほど非公認さもありなんと思った次第。時代も’67年からの10年に絞って描いているので、ドラッグなんかもガンガン出て来ます(その犠牲になってしまったワンちゃんも出て来ますが、あの描写は愛犬家には耐えられないところなのでは?)。
ギャスパー・ウリエル演じるサンローランが、とっても雰囲気を出していてお見事。渡り幅が広いパンタロンのスーツをスタイリッシュに着こなしています。 また晩年の彼をヘルムート・バーガー!が演じているのですが、顔の形などは似ていないのに、写真で見る晩年のサンローランの雰囲気をまとわせていました。彼が、バーガーが主演したヴィスコンティの『地獄に堕ちた勇者ども』をTVで見ているという楽屋オチ的場面までありました。 さらには懐かしやドミニク・サンダ!まで出てきたので(出演を知らなかっただけに)驚きましたが、おばあちゃんになっても確かにドミニク・サンダだとすぐわかりましたね。
終盤のファッションショーの場面で画面が複雑なスプリット・スクリーンになるのですが、これはサンローランのモンドリアン・ルックを連想させるもの。
中盤、ビジネスウーマンがサンローランのパンツスーツを仮縫いで試着しながら、「こんなに男性的だとは思わなかった」と戸惑っていると、イヴが着こなしをアドバイスし、冴えなかった彼女があれよあれよと素敵に変わっていくシーンは本作の白眉ですね。
省略も多く、時間も交錯したりするので、サンローランの生涯や人物をざっと知っていないとわかりにくい作品かも知れませんが、映画としてのチャレンジングな魅力には溢れています。英語と仏語の同時通訳を交えたYSLのビジネス交渉を延々と描く場面を臆せず入れているあたりも、本作の真骨頂。ベルトラン・ボネロ監督、骨のある仕事を見せました。
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